もう一度咬みつけよ、ヨウジ
「ファッションニュース」3月号増刊
とてもショッキングなタイトル、何だか「明日のジョー」の丹下のおっさんが叫ぶ「立て、立つんだジョー!!!」に似た悲痛なタイトルである。「ファッションニュース」という雑誌の3月号増刊の非常に意味深なタイトルである。
開院以降クリニックで定期購読誌を購入しているので、以前に比べて書店に立ち寄ることがなくなった。「これも縁かな」と思うのは、ご無沙汰している書店に何気なく、引き寄せられるように立ち寄ることがある。ただぶらぶら覗いている時に限って、マニアにとっては必須の雑誌に出会う。今回の雑誌も、まさしくその典型例である。
たまたまファッションコーナーの前に立ったところ、いきなり「特集 山本耀司 もう一度咬みつけよ、ヨウジ」のインパクトのあるタイトルが目に入ってきた。それが、「ファッションニュース」3月号増刊の表紙であることを次に理解した。もちろん、すぐさま購入した。自宅に帰って一通り見た後、その雑誌の最後のページにあるバックナンバーのタイトルを見ていると、前回の増刊号はアレキサンダー・マックイーンの追悼特集である。アレキサンダー・マックイーン、自ら命を絶った早世の天才デザイナーである。一方、ヨウジさん本人は死んではいないが、会社が死んだことは確かである。今回の特集号を単なる偶然といっていいのだろうか。
「天才デザイナーは若くして逝ったよ、しかし、あなたは同じ天才デザイナーなのに今も生き続けているよ」と嫌みを言っているのか。生き続ける爺さんに対して「あなたはもう終わっているんだよ、もういいんじゃない」と肩を押しているのか。死にかけている山本耀司氏になお「てめえ、何しているんだよ、まだまだこれからじゃないか」とエールを送っているのか。
その服作りがとても複雑、正と負、光と陰、瞬間と永遠、古典と現代、白と黒、男と女、上流と下流、自由と制限、日常と非日常、夢と現実、虚と実、本物と偽物、神と悪魔、美と醜、美術品と日用品、自力と他力、世界と日本、冷と温、子供と大人、流行と時代遅れ、欲望と気概、天才と馬鹿、粋と無粋、保守と革新、賞賛と非難、構築と破壊、東洋と西洋、個と社会、仕立て服と既製服、中心と辺境、賛成と反対、未熟と成熟、繊細と愚鈍、戦争と平和、自然と人工、勤勉と怠惰、資本主義と共産主義、冷静と情熱、必然と偶然、主と従、とにかく、相反する思いがその服作りに塗り込められている。
男女を問わずその服を着ている方は、何だかいかがわしく見えるけれども色々な意味で個性的な自由人である。ヨウジを着ているから個性的ではなく、個性的な人がヨウジを選択しているのであろう。
山本耀司は哲学者である。しかも哲学者なのに言語を用いず、ファションというアートフォームを用いて世界に向けて情報発信することができた初めての哲学者である。デザイナーという枠だけに止めておくわけにはいかない。日本人自身が、改めて彼に咬みつかれなければならない。現代の武士(もののふ)に、斬られなければならない。