ニッパチとウメヅキ
閑散月
ビジネスの世界では「ニッパチ」という言葉がよく使われる。2月と8月は売り上げが伸び悩み、利益が落ちるという意味の俗語である。その理由として2月は、12月から1月まで出費のかさむ行事(忘年会・クリスマス・正月・新年会など)の後で出費を抑えようとするため、あるいは寒いから購買意欲が下がることが理由に挙げられる。逆に8月は、暑過ぎて購買意欲が下がるとか、さらにはお盆があるためと言われている。
当地には、更に独特のニッパチがある。南高梅で有名な梅の収穫時期である。この6月の時期は、梅農家が家族総出で、時には農家同士が助け合い、時には高い時給で求人を募集してまで収穫にあたる。
しばらく振りに帰郷して勤務した基幹病院で、ある時、病床利用率が低いことにふと気付いた。病院事務スタッフに尋ねたところ、「梅の時期だからですよ。」のそっけない返事だった。半信半疑でいたが、翌年、翌々年も同じ時期に病床利用率は見事に低下した。自分が経験した嘘のような本当の話がある。内視鏡検査で手術を要すると判断された胃癌患者さんに告知をしたところ、「梅の(収穫)時期が終わるまで待てへんやろか?」の返事。当時、地域性を理解していなかった僕は思わず「梅と命、どちらが大切ですか!」と問いただした。すると、患者さんは押し黙ってしまった。梅農家や関係する人にとって、梅の収穫時期は命と同じくらい重要であることをようやく理解出来た。当地の数少ない基幹産業従事者が病院受診さえ控える時期なので、飲食を始めとしたサービス業は、蒸し暑くビールの美味しい季節だが閑古鳥が鳴いている。
我々の医療業界もある意味サービス産業なので、他のサービス業と同様だそうだ。一般内科は、2月にインフルエンザが猛威をふるわない限り振るわない。2月に忙しい医者は、花粉が飛散することによって生じるアレルギー関連科と聞いている。8月は、医療全般的にニッパチだそうである。
だそうだ、らしい、聞いている、何となく他人事のような言い回しをするのは、出入り業者から伝え聞くだけで、自身それを実感できないでいるからだ。例年梅月は、難病疾患更新時期と重なり比較的検査件数の多い月である。昨年八月は、例年になく長期休暇を取ったにも関わらず過去最高検査を更新した。今年の二月も、お陰様で開院以来最高検査件数を達成した。
検査件数が増える理由が良く分からないので逆に不安なのだが、自分が取り組んできたことのへの結果と素直に受け止めさせていただく。とともに、検査をさせていただいている患者さんへの感謝を忘れないでいよう。検査で患者さんに苦痛を強いた時には、先ず謝ろう。僕を必要と思ってくれる人のためにもっと精進しよう。そんなことを考えている今日この頃である。ニッパチ月に少し慌ただしくて、とうとう心がヤケッパチになったのかもしれない。