巨悪は眠る
捏造論文と聞いて思い出したこと
彼が責任著者の論文の要旨は、「脂肪組織中のある酵素の働きを抑えると、たくさん食べても体重が減り血糖値も下がる」という糖尿病や肥満治療への応用が期待される画期的な論文だった。もっと驚いたことは、この論文の筆頭著者が当時医学部の学生だったことである。
不正が発覚した後立ち上げられた調査委員会による研究不正に関する調査報告書は、捏造・改竄データは筆頭著者の医学部学生によって作成されたものである、指導する立場にあった二教授の医学部学生に対する研究指導・共同指導および監督は不十分であった、両教授が研究者・教育者として適切な対応を取っていればデータ捏造に気付くチャンスは十分にあったと結論付けた。これにより大学教育研究評議会は、医学生に厳重注意処分、両教授に2週間から1ヶ月の懲戒処分を課した。
当時この論文不正事件に対する処分の甘さに批判が起こったのは言うまでもない。STAP細胞は存在するのかしないかの話どころではなく、研究に用いた遺伝子改変マウスが存在すらしていなかった、最初から最後まで全てのデータがでっち上げの夢物語だったのだから。しかし、組織防衛という観点からは、いみじくも同じ構図になった。未熟な研究者の独断と暴走と断じて、責任を一人に負わせる「トカゲの尻尾切り」である。
STAP論文に疑義が生じて、この地方出身の現役教授のことを久しぶりに思い出した。大学名と教授名で検索してみたところ、やはり論文不正事件がトップに出てきた。読んでさらにびっくりした。論文不正事件の後、彼の教室から出された論文が、STAP論文の発表された「ネイチャー」と双璧をなす「サイエンス」から撤回されていたのだ。この第二次不正事件は、新聞やテレビ、その他のメディアで取り上げられたのだろうか、僕は7年経った今年初めて知った。検索する限り、第二次不正事件において処分はなかったようである。
国立大学医学部の教授とはいえ公務員である。通常の公務員が偽文書作成に公金横領をすれば、懲戒解雇処分ものである。しかも、同じことをもう一度しても、その職を奪われないとはどういうことなのだろうか。刑事事件で言うと、STAP論文はまだ容疑者の段階である。一方、この地方出身の現役教授は、科学の世界では2度も同じ過ちを繰り返した犯人である。そう考えると、重大事件を起こした犯人が闊歩して、容疑者が批判・誹謗中傷・罵詈雑言を浴びせられることに僕は違和感を覚える。「巨悪は眠らせない」とは検察の言葉だが、「巨悪は眠る」そんな言葉が浮かんだ。
僕は小保方さんを擁護するつもりもなければ、批判する気持ちもない。僕が小保方さんならどうしただろうと想像してみた。研究者として生きる道を決意して、実験をしていたら何か不思議な現象が起こった。その現象を調べれば調べるほど、生命科学の根底を覆すような事象が起こっている。この分野は日進月歩しのぎをけずる二番じゃだめなんですの世界である。僕が同じ立場なら今回と同様、功名心にはやって勇み足を踏んだかもしれない。
不正調査委員会で不毛な議論をしてマスコミの恰好のネタを延々と垂れ流すより、一刻も早く公開実験をしてSTAP細胞の存在の有無を明らかにして欲しいと誰もが願っている。