突然の電話
レクサスのおもてなし(1)
レッドブル・エアレース2016千葉大会で、室屋義秀選手が日本人として初優勝を成し遂げた。空のF-1とも呼ばれる飛行機レースの世界大会である。大々的なニュースになると思いきや、意外とひっそりしていたのには驚いた。
その室屋選手とレクサスがスポンサー契約を結んだのを機に、千葉大会のプレミアムパスのプレゼントキャンペーンが行われた。数十万もするチケットである。「万が一当たればラッキー」程度のつもりでレクサスのホームページを介して応募した。千載一遇の好機があれば東京行きも岡山行きも断念するつもりだったが、予定通りに事が進んだ。
出来事は、とある日曜の夜に起こった。いつものように、お酒をゆっくり嗜みながら食事を終えた頃だった。その時間に鳴ったことのない固定電話の呼び出し音が突然響いた。僕は完全に寛いでいたので妻が電話に出た。怪訝そうに電話対応していた妻が「エアレースの何とかかんとかと言っているのだけど、」と問うてきた。応募したことを妻に伝えていなかったため、「あー分かった、分かった。」の言葉とともに重い腰を上げて電話に出て思わず絶句した。
第一声が「レクサスに興味ありますか?」である。何台もレクサスを乗り継いできて、現在も発注して納車を待っている身である。レクサスに興味があるも何も、開業以来関係を欠かしたことのない間柄である。一気に酔いが冷めた。「あなたね、レクサスに◯台乗ってきて、今も納車待ちなんですよ。誰のどういう指示の下、電話してきてるんですか?」冷静に対応しているつもりでも、厳しい口調になっているのが分かった。電話の向こうも口ごもるばかりである。
早々に電話を切って、和歌山県にあるもう一店舗、馴染みの販売店に電話をしてみたが、「キャンペーンに応募した方に連絡を入れなさい。」といったメーカーからの通達は受け取っていないとのことだった。担当者曰く、「おそらく、長嶋さんの住んでいる地域がレクサス◯◯店の販売エリアなので、メーカーの方から通達があったのかも知れませんね。」キャンペーンに応募した以上、何かしらのダイレクトメール(DM)を受け取るのは致し方無いとは思っていたが、まさか「レクサスに興味ありますか?」の電話を受け取ることになるとは思わなかった。
車は好きである。しかし、販売店巡りは大嫌いだ。「こいつ買う気あるんか?」販売店員に見透かされている感覚が嫌なのである。けれども、時に心に突き刺さる車がある。めったにないが、そんな時は必ず試乗しに行く。欧州の名だたるプレミアムメーカーの試乗をしたが、その後DMはあっても直接電話連絡してきた販売店はない。試乗もしたことのない、ましてや訪れたこともないプレミアムメーカーの販売店から直接電話連絡が来ることが如何に異例のことか。
余談になるが、開業医になる前すなわち勤務医の時、メルセデス・ベンツの販売店を訪れたことがある。発売されたばかりのコンパクトカーに興味があったからである。客は数人で、とても忙しいとは思えない状況なのに誰も声をかけてくれなかった。マジマジと眺めていたが最後まで目も向けてもらえなかった。販売店の自動ドアが閉まった瞬間心に誓った。「どんなに成功しようとも、メルセデスだけには絶対に乗るまい。」と。