ホラーな目に合わせてやる!
人間の欲望は恐ろしい、つくづくと思う。しばらくすると無料スタンプにもの足らなくなってしまった。無料には訳があった。特徴的に見える絵文字なのだが、何十種類もダウンロードしていると、絵は異なるが文字が同じであることを理解した。LINEのやり取りがワンパターンになりがちになった。無料LINEスタンプをダウンロードする際、新着有料スタンプを見るが今ひとつピンとこず、「無料スタンプでいいや。」、そう言い聞かせる日々が続いた。
ある日、衝撃的なスタンプが目に飛び込んできた。「伊藤潤二 ホラーな目に合わせてやる!」だった。震え上がりそうな絵に、ゾッとする台詞、「こんなスタンプ送られたらびっくりするよな。」と率直に感じるとともに、自分が送信する姿を思い浮かべ妙に嬉しくなった。購入額は100ポイント、購入しようと決めたのは夕飯を終えた七時過ぎだった。
周囲に有料LINEスタンプを使いこなしている人間はなく、頼みの綱の長男に聞いてもよく分からないとの返事だった。購入を試みたが、Line IDやApple IDの設定の仕方がよく分からない。設定できたとしても、クレジットカード情報を登録しなければならない。たかがLINEスタンプの購入のために、重要個人情報を入力するのは抵抗があった。ネットで調べたところそれを回避するためには、コンビニでマネーカードを購入してチャージする方法があるらしい。即刻近所のファミマに走って「LINEカードください。」と尋ねたが、当初対応してくれた店員には怪訝そうな顔をされ、もう一人のスタッフの素早い対応で千円のLINEカードが購入できた。けれども、そこからまだ一山二山あった。SafariからLINEストアにアクセスしようと試みるのだが、Line IDを求める表示が出てきて堂々巡りになった。どうにかこうにか千円分のチャージを出来た時には、購入を決意してから三時間半が経過していた。
LINEスタンプの100ポイントは日本円で240円相当だそうだ。発情した猫のごとく有料スタンプをダウンロードしたら、あっという間に千円のチャージが無くなってしまった。四個の有料スタンプを購入出来たことが嬉しくて、あちこちに無理やりスタンプを送りまくった。「どうしたらスタンプ購入できるん?」「羨ましい!」「ちくしょう!!!」妻を始め、シン社長、長男、周囲から羨望のLINEメールが届いた。もはや我が意を得たり、次は三千円のLINEカードを購入した。チャージしておけば、他人にスタンプをプレゼントすることもできるらしい。親しい人々にLINEスタンプをプレゼントしたら喜びのLINEメールが届く届くこと。LINEでやり取りしている人間にとって、五千円のお中元やお歳暮より、たった240円のLINEスタンプが嬉しいらしい。
SNSで人と繋がることに興味を持てなかった僕に一筋の光明が差した。一日の黄昏時、疲れきった身体をソファに横たえながら、送られたLINEメールに返信したり、新しいスタンプを購入したり、夕食後から風呂にはいるまでのまったりとした時間を持て余すことがなくなりつつある。この時間は睡魔に襲われる危険な時間だが、現代のツールを使いこなすことによって生活リズムを保てるようになった。今日もLINEスタンプを送りつけながら、一人ほくそ笑えんでいる。この場でお詫び申し上げます、送られた人間は、おそらくホラーな目に合っていることでしょう。