ルイヴィトンの別世界(ルイヴィトン「TIME CAPSULE」展パート2)
関東に上陸予想の台風十二号は、大きく弓なりに西に進路を変えて、二十九日には近畿地方を横断することが伝えられていた。そんな中、大阪で開催されていたルイヴィトン「TIME CAPSULE」展に義理と興味本位でもって、二時間かけ車で出向いた。しかし、入場無料の展覧会はわずか十五分で終わってしまった。隣の会場には、顧客と思しき人達が担当と思われるスタッフに伴われ悠々と場内に入っていた。外からは中の様子が全く伺えない。顧客ではない我々夫婦は、「お誘いして頂いた店長さんに表敬訪問して帰ろう。」、後ろ髪を引かれる思いで会場階をあとにした。
阪急梅田店五階にある店舗に立ち寄った。応対してくれた女性スタッフに店長に会いに来たことを告げた。日本で唯一開催される展覧会の最後の週末である、当然、店長は不在だった。ところが、対応してくれたスタッフが「もしかして長嶋さんですか?」と問いかけてくるではないか。怪訝そうにうなずくと「ヨウジヤマモトがお好きな方ですよね、店長から伺っています。展覧会はもう見ましたか?」とたずねてくる。再度うなずきながらダメ元で、「あのぉ、隣の会場は顧客さんだけしか入れないんですよね。我々は無理ですよね。」恐る恐る聞いてみた。すると、拍子抜けするくらいいとも簡単に、「大丈夫ですよ。」と二つ返事。先程にべもなく断られた会場に入場させてもらえることになった。しかも、二度も。初回は応対してくれた女性スタッフ、二回目は多忙な中時間調整をしてくれた店長さんの都合に合わせて案内してもらった。
大きく分厚い扉の向こうにはルイヴィトン・ワールドが展開されていた。テーマに沿ってエリアが分けられていて、うろ覚えだが、アウトドア、和、書斎兼カウンター、リビング、最後に、ひな壇に大きなソファが据えられた不思議な空間だった。先ず驚いたのが、ルイヴィトンはハンモックも作っているのだ。さらにびっくりしたのは、革製のそれは軽自動車が悠々買える値段なのだ。僕にとっての圧巻は、次の和をモチーフとしたスペースだった。茶器、雛人形、兜を収納するトランク三点が飾られていた。今回の展覧会のためルイヴィトンが日本の名だたる職人に制作依頼した作品、それに合わせて作られたトランクだそうだ。日本の伝統とルイヴィトンの歴史が見事に融合したトランクであった。その後、音楽家ストコフスキーのために制作された折り畳みデスクやルイヴィトンのトランクが散りばめられたリビング、特殊な形態をしたソファ、クロコダイルのバッグ等、マニア垂涎の商品がディスプレーされていたが、我々には別世界の出来事のようで実感がなく、ただぼんやり眺めるだけだった。
ルイヴィトン初心者にとって、展覧会だけではさもありなん、感じるものはあまりなかった。けれども、別室の展示室まで拝見させてもらい、このメガブランドの重層性を感じずにはいられなかった。ビギナー、一般ユーザー、特別なバッグをアレンジするヘビーユーザー、カスタムメイドされた大きなトランクを購入する超富裕層、ルイヴィトンのマーケティングのきめ細やかさに感服する他なかった。普段何気なく覗くショップからだけでは、うかがい知ることの出来ない世界があるのだ。間口は限りなく広く奥行きは深遠、空恐ろしささえ感じた。(つづく)