そうだ、四国に行こう!
今年は受験生がいない。何も考えず、心配もせず、悩むこともない。怯える必要がなければ、不安に打ちひしがれることもない。天気は爽快、気温も穏やか、なんて晴れ晴れしい年末年始だろう。仕事がなければ、酒だ酒。例年の年末年始は、ひとり酒、やけ酒、深酒だった。だが今年は祝い酒だ。飲み過ぎて頭痛はしても、精神的に後に残らない。こんな晴れ晴れとした年末年始は久しぶりだろう。
足掛け六年、受験生の親だった。昨春ようやく受験生の親から開放された。途端に、悪夢を見ることがなくなった。大学受験、医学部進級試験、医師国家試験、何度夢の中で落ちたことだろう。大体パターンは決まっていて、迫りくる焦燥感、落ちる前の切迫感、落ちた後の絶望感、この三パターンがとめどなく繰り返される。悪夢の迷宮の中で何時間も悶え苦しむ。夢の中でうなされるくらいならいい。クリニックの駐車場には桜の木が植えられている。浪人が決まった際の満開の桜ほど恨めしいものはなかった。
令和元年夏、久しぶりに家族旅行に出かけた。レンタカーを借りて、北陸三県を宿泊地以外当て所もなくひたすら車を走らせた。案外好評だったようで、師走になって「今回はどこ行くん?」と子供達から連絡が入った。今回はそれとなく準備できていた。家族六人が乗れる車は準備できている。自宅から車で行けて、三泊旅行となると限られている。そう、四国以外あり得なかった。初日高知市西鉄イン高知はりまや橋、二日目道後温泉道後プリンスホテル、三日目徳島市JRホテルクレメント徳島、妻に宿泊先だけを選んでもらった。
四国旅行一日目
十二月二十八日、十時半に自宅を出発した。当初、和歌山港からフェリーを使って徳島に上陸することを検討したが、待ち時間や乗船時間を考えれば車の方が早く着くことになった。高速道路をひた走りすることにした。まずは淡路サービスエリアを目指した。世界最長の吊り橋と言われる明石海峡大橋は、その壮大さに度肝を抜かれた。当日は風が強く車のハンドルが取られそうになりながらも、目の前に見える素晴らしい眺望に感動するとともに、日本人の叡智に思いを馳せた。年末で賑わうサービスエリアでひと休憩して、次は鳴門海峡大橋である。明石海峡大橋と比較するとさすがに規模は小さいが、眼下に見える鳴門の渦潮ともども絶景だった。今回、淡路島は縦断するだけに終わったが、次回はじっくり淡路島を訪れたいと思った。その後は、徳島自動車道から高知自動車道へと車を走らせた。道中、ナビモニターではNHKドキュメンタリー「彼女は安楽死を選んだ」が流れていた。スイスで安楽死を選択した女性とその家族、久しぶりに全員集合して旅行をしている我々家族。その対比もあり何とも切なかった。
頑張ったおかげで当初よりも早く高知に着きそうだった。日の入り直前の桂浜を訪れることにした。桂浜をしばし散策した後はホテルにチェックイン、ホテル近くにある「ひろめ市場」での食事を目論んでいた。しかし、目論見は無残にも外れた。高知駅前の主要道路は大渋滞、ひろめ市場は立錐の余地もなく、商店街の居酒屋はどこもかしこも満杯、里帰りの人々で賑わう高知の年末に我々家族は途方に暮れた。どうにかこうにかホテル近くにある土佐料理「司 高知本店」を探し出し待つこと三十分、食事にありついたのは八時半を過ぎていた。ぶらっと旅行の醍醐味はこれである。司は土佐料理の老舗店だったようで、皿鉢料理と高知の地酒を堪能することが出来た。