サヨナラ セイコーガランテ
僕は、かつてサラリーマンだった。独立してからは、スーツにネクタイを着用することは冠婚葬祭以外なくなった。普段着もカットソーが中心でYシャツを着ることはない。食事に接待されることはあっても接待することはない。付き合いのあるブランドからレセプションに招待されることがある。ドレスコードが面倒と思った時は和装することにしている。なので、人からどう見られているのか、あまり気にしない。むしろ、自分らしくあるために、如何に装い立ち振る舞うかに注力しているだけだ。
前置きが長くなった。結局何を言いたいかというと、「僕の腕時計選びは、大きくてゴツく存在感のあるものを選んでいます。」という次第だ。以前もこの場で書いたように、人生初めて選択した時計がドレスウォッチだった。黒文字盤の革ベルトの時計は、使用する場が限られ普段着にマッチしない。したがって、二本目以降は、強い印象と独特の雰囲気があるステンレス製のものをチョイスするようになった。その二本目が、2000年に発売されたセイコーのスポーチュラ・キネティック・クロノグラフ3rdモデルである。秒針・分針・時針が独立した多眼式のクロノグラフで個性あふれるデザインに瞬殺された。唯一無二の意匠と同様、セイコー独自の動力機構にも好奇心がそそられた。以来、日本人の誇りを胸にセイコーの時計を積極的に購入するようになった。
その一つがセイコーのガランテである。ガランテとはイタリア語で、「紳士的」+「女性に優しい」+「粋」を混ぜ合わせたようなニュアンスの言葉らしい。セイコーの時計と言うと、グランドセイコーを筆頭に質実剛健だが今一つ個性に乏しいというイメージがある。ガランテは、その対極を目指したエレガントでファッショナブル、それでいて遊びゴコロを持ったオトナのブランドを標榜した。もちろん中身はグランドセイコーなので、まさにラグジュアリースポーツウォッチである。十年ほど前には手塚プロダクションともコラボし、「鉄腕アトム」や「ブラック・ジャック」の限定モデルが立て続けに発売された。その翌年には「ローリング・ストーンズ結成五十周年記念モデル」が発売されコラボものが妙味だった。しかし、翌年の「FCバルセロナ限定モデル」で方向性が見えなくなった。そもそも基本骨格が決まっているプロダクトなので、余程の個性がなければ複数本所有する必要がない。ロレックスデイトナだけを文字盤・素材違いで複数本所有するようなものである。
セイコーは未だ迷走(瞑想?)しているように感じている。セイコーには「グランドセイコー」「クレドール」「ガランテ」の三つのプレミアムブランドがある。誠に残念だが、ガランテがこの九月末で発売終了することになった。それなら今後、「いつかはクラウン」的な究極のドレスウォッチとしての「クレドール」の立ち位置はどうなるのだろう。ロレックスがクラシックモデルとプロフェッショナルモデルに分けているように、セイコーもハイエンドモデルを「グランドセイコー」に集約化し、クラシック、コンテンポラリー、アバンギャルドの三つのラインに棲み分ければ効率化とブランド化が進むように思っている、かつてのセイコーファンである。現在のセイコーには興味が失せた。
(追記)
久しぶりにグランドセイコーのホームページを見てみた。一応「ヘリテージ」「エレガンス」「スポーツ」のラインに分かれているようだ。見た瞬間、「ああ、どれもこれもガランテがない!」。もう一度引用する、ガランテとはイタリア語で、「紳士的」+「女性に優しい」+「粋」を混ぜ合わせたようなニュアンスの言葉らしい。加齢臭漂う中年の僕にとって大事なのは、「色気」と「遊びゴコロ」、そして「ストイック」である。