ありえへん話〜序章〜
このコラムを読まれている方は、僕に対してどんな印象を持っているのだろうか。良い車に乗り、身なりもそこそこ、経営者としても事業規模を拡大している。「儲かっているんやろなぁ。」と思われているかもしれない。儲かっているかどうか、他所を知らないので比較対照出来ない。僕は自分で稼いだお金を財産として残すつもりは微塵もない。天国に持って行けないのなら、現世で自分のために使うか、もしくは次世代のための環境整備作りを考えている。この視点が派手に映るのかもしれない。開業医は、世間体を気にする人が多く案外質素な方が多い。得体のしれない身なり、国産車にクオーツ時計、「一体、何に使っているんやろか?」不思議である。
儲かっているかどうかの話に戻る。当たり前の話だが、医療費は全国津々浦々一律である。凄腕の医者も研修医も同じ点数である。ちなみに1点は10円に相当する。どの業種もそうだが、収益を増やそうと思えば来客数を増やすか、もしくは一人当たりの単価を上げなければならない。開業医には1日に100人以上診る猛者もいるようだが、僕は内視鏡検査を1日に20件出来ても、診察可能患者は3〜40人が限度である。気力と集中力が持たない。内視鏡検査は確かに単価が高い。しかし、単価の高い検査ばかりをしていたら、国民皆保険制度のもと高点数医療機関として行政機関によって指導がなされる。当院は胃腸科専門医としての性格上、どうしても単価が高くなり指導の対象となる。集団指導を定期的に受け、時には一歩進んで個別指導になることもある。個別指導の結果によっては、監査となり医療費の返還が求められる。個別指導に当たって準備するものも何かと大変で、開業医にとっては鬼門とされている。個別指導を苦に、自殺した開業医の例もあるくらいだ。自分が意図して単価を高くしている訳ではなく、健康保険法に基づいた診療を行った結果なので、「個別指導は、自分の行っている医療の正当性と妥当性を説明に行く場」と僕は割り切っている。したがって、医療費請求に対しては誰よりも繊細で神経質でなければならない。
「それなら広く浅くたくさんの患者を診ればいいじゃない。」という話になるかもしれない。数をこなそうとすれば、どうしても事務的・自動的になってしまう。我々医療機関は、受診した患者さんのレセプト(診療報酬明細書)を作成し、月単位で審査支払機関に提出している。審査の上妥当なら、保険主体から窓口自己負担分の残りが支払われる。流れ作業的な医療を行っていると、突如として査定(レセプト内容が不適切)され、しかも遡って行われるため、大幅な収入の減額になることもある。ある医師が用法を無視して漫然と薬を投薬していたところ、数百万円も減額されたという話を聞いたことがある。数をこなそうとすれば、どうしても診療が雑になってしまう。
本論に入る前に、小難しい内容になってしまった。「医者は儲かるかどうか?」だが、医療保険制度は、適正な医療行為を行った対価として定められた医療費が支払われるシステムになっている。ということは、必要以上に儲けることは出来ない。儲けようと思えば、過剰診療をするか不正請求するしかない。けれども、チェック機構が働いているため困難である。例え出来たとして、不正が明るみになった時の代償が大きすぎる。最悪、保険医停止である。なので、保険医である以上、地道に診療に徹し稼ぐほかない。(つづく)