院長のコラム

ありえへん話〜番外編・喧嘩の仕方〜

時を遡ること四十数年前、これを機に僕に喧嘩の仕方を教えてくれた人の話をしてみたくなった。それは、僕が中1の話である。今思うと、圭吾(もちろん小山田)が得意げに語った90年代サブカルチャーの源流だったかもしれない。当時、校内暴力という嵐が全国に吹き荒れていた。

こんな田舎の温暖な地域でもご多分に漏れなかった。僕の通った中学校は当時、地域柄もあってか田辺市で1、2位を争ういわゆるワル学校だった。常時、窓ガラスはそこここ割られ、トイレの扉もあちこちへこんで壊れている。中庭にいると、傘や水で満杯のコンドームが上から降り掛かってきた。ワル男の格好と言えば、リーゼントヘアーに剃り込み、虎や龍の刺繍が内側に彩られた長い学ランに渡りがダボダボのボンタンと称するズボン。ワル女は流行りの聖子ちゃんカットに、極端に裾の短い上着と相反する長い丈のスカート。校内にはたばこの吸い殻が落ち、シンナーか酒でラリってる輩がフラフラと校内をうろついていた。今振り返るととんでもないが、当時はこれが日常で悲壮感や陰湿的なものはなかったように思う。

ある日、休憩時間に校門前を友人とぶらついていたら、2学年上の先輩が何人かの同級生を前にものすごく息巻いていた。内容はよく分からないが、雰囲気や言葉遣いからとにかくブチギレていることは確かだった。怖さ半分、興味半分で何が起こっているのか遠巻きに見ることにした。聞いていたら突如、半信半疑の言葉が飛び込んできた。「ワイわな、勝てん喧嘩は絶対にせえへんで。せやけど勝てると思ったらコテンパンにしたるで!」、いきり立っている仕草とは裏腹の情けない内容に、「それ、あかんやん。勝てない相手でも、時によっては闘うのが男気やろ!」思わず内心ツッコミを入れてしまった。言動のギャップが衝撃的なその光景は僕の瞼に焼き付いた。その先輩はその後、その筋の道に進んだと風の便りに聞いた。もう5年にはなるだろうか、新聞の訃報欄に彼の名前を見つけた時には感慨深かった。

成人になると、殴り合いの喧嘩をすれば直様警察沙汰になる。体力は無用の長物になり、知力こそが必要不可欠と独立した不惑の年齢になってようやく理解できた。「ワイわな、勝てん喧嘩は絶対にせえへんで。せやけど勝てると思ったらコテンパンにしたるで!」、逆説的に敢えて丁寧語に訳せば、「負ける喧嘩はするべきではありません。しかし、勝てると思えるなら自信を持って挑みなさい。」、、、曰く真理である。揉め事が起こり争う度、「ワイわな、勝てん喧嘩は絶対にせえへんで。せやけど勝てると思ったらコテンパンにしたるで!」、いつの頃からかこの言葉が僕に自制と自省を促してくる。僕に喧嘩の仕方を教えてくれた先輩のご冥福を、この場でこの場だからこそ今更ながら祈りたい。恥ずかしいけれども、こんなくだらないと思える出来事が僕の原点なのだ。(終)

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