ある二人の生き方(中高年編)
昨年末、高校の同級生からLINE連絡が入った。師走の慌ただしい時期に長年勤めた会社を早期退職すること、再就職するまでの1ヶ月は何度か帰省するので食事でも、という内容だった。彼のことは、薬学部を卒業して製薬会社のMR(営業担当)をしている、と風の噂で聞いていた。高校卒業後出会うことはなかったが、5年ほど前、ひょんなことから再会し酒を酌み交わしLINE交換をした。今回、それ以来の連絡である。早期退職という言葉に、「あぁ、俺達もそんな年齢になったんだ。」と感慨深いものがあった。これからの彼の人生を心配するとともに今回の経緯にも興味があった。新型コロナ感染者数も落ち着いていたこともあり、年明けそうそう会うことにした。
マラソンが趣味という精悍な体型の友人に再会の挨拶もほどほどに、「六十まで、もうちょっと我慢できんかったん?」といきなり問い詰めてみた。5年前会った時、キャリアアップに興味がないこと、窓際なんよと自嘲気味に語っていたのが印象に残っていた。「上司から肩叩かれたし、早期優遇退職で退職金の割増もあったから。」との返答に、5年前の言葉が謙遜でなかったことを知った。下衆とは思いつつ退職金額を聞いてみた。早期退職で2割程増しとは言え流石に一流企業、その金額に仰天した。今年から資格を活かして、調剤薬局で薬剤師として働くそうだ。「まぁでも、資格を持っていたから良かったなぁ。◯百万ぐらい貰えるんやろ。」と尋ねたが思ったほどではなかった。都市部では薬剤師が比較的充足していて、五十半ばの年齢と調剤薬局薬剤師として未経験が足枷になったようだ。互いの家庭や近況報告等、三時間はあっという間に過ぎた。再会を約束して別れた。
両親の癌遺伝子を色濃く受け継いでいる僕の人生は60までと考えている。しかし、もしそれ以上に生きながらえるなら、現在最も興味があるのが年金受給年齢をいつにするかである。70歳まで繰り下げると最大42%、75歳までにすれば84%も増額すると言われている。年金を支払っている以上、少しでも多く受給してもらいたいというのが本音である。僕の周囲では案外、年金について無頓着の人が多い。卑近な例を上げる。50歳を過ぎた法人スタッフが、居心地が悪くなったと退職を申し出てきた。そのスタッフの仕事ぶりは評価していたが、周囲との軋轢が気になっていた。辞めてどうするのか尋ねたところ、しばらくパートで働いて条件の合う事業所が見つかれば常勤として働きたいとのこと。あまりの世間知らずさに、「あんたなぁ、」とうとうと説教することになった。年齢が高くなるほど採用条件が厳しくなること、年齢が高くなるほど新しい職場環境に慣れ親しむのが困難なこと、厚生年金から国民年金に換われば支払われる年金額が少なくなること等を話し、仕事に対する信念は大事だがそれを評価するのは自分ではなく他人であること、ある程度の年齢になれば大事なことは老後の受け取り年金額であることを話したしなめた。それ以降、そのスタッフの仕事ぶりはいささか変化したようだ。
前回と打って変わって、「未来」「夢」「希望」のない話になった。今回の例はかなりいい方である。医療法人で人事を扱う立場上、送られてくる数々の履歴書、いとも簡単に辞めていくスタッフを目の当たりにして絶望することが多い。哀しいかな、中高年の現実の一端である。