いじめ案件に介入して(2)
いじめが明るみに出て2日目の夕刻、我々夫婦は被害者家族の委任者として学校に出向いた。出席者は、加害者側が本人と両親、学校側は校長、被害者側は我々と義弟夫婦の4人であった。定刻になっても義弟夫婦は来ない。どうも、三者面談というよりシャンシャン面談、娘ともども加害者家族を被害者家族に謝らせ、学校側は、校長自らが面談を仲介したという既成事実を教育委員会に上げるだけの会議、といった雰囲気が漂っている。会議室に通されしばらく経っても来ない義弟夫婦にしびれを切らした僕は、加害者家族に開口一番切り出した。
「我々は、刑事告訴と損害賠償請求を考えているけれども、そんな話をする場に娘を置いといていいの?」と娘を退席させた。「一度目は仕方なかったとして、いじめの加害者としてその後どんな指導をしたの?」、「どうすれば、過ちを二度も繰り返すような子育てが出来るの?」と詰問し続けた。「黙っているのは(娘をかばう)犯罪やで!」夫婦の表情は段々とこわばり、しどろもどろ状態である。悪いのは加害者家族だけではない。「校長、なんで同じことが起きたの?説明して!」、「申し訳ありません!」、「謝らなくていいから、ちゃんと説明して!」、「指導してきたつもりですが、」、「なあにーっ!つもりって何な!同じことが起こったということは、指導しなかったのと同じやろ!」、先日の健気な姪の寂しい笑顔が僕の怒りに拍車をかけた。ロートル校長に、心ない無意味な謝罪をされても何も解決しない。同じことが起こらないようにすることこそが、今は肝要である。昨日、事情聴取に立ち会った教頭と元担任、現担任も同席するよう求めた。僕の怒声がピークに達した頃、義弟夫婦はようやく到着した。シャンシャン面談で終わらないよう、加害者家族に三度目がないよう誓約書を、学校側には今回の件の報告書と謝罪文を作成するよう求めた。
今回、被害者家族委任者として、いじめ案件に介入することになった。そして、三者三様に問題があることを理解した。先ずは、学校側である。学校は、加害者家族に事の重大さを十分に伝えていなかったような印象を受けた。前回の三者面談には父親が不在だった。仕事の忙しさが理由と僕は伝え聞いた。「お父さん、大変な問題が起こっています。ぜひ会議に出席してください。」と学校側が伝えていれば、どんなに状況が変わっていたことだろう。前回参加したのは母子である。今回、我々が追求するいじめの数々に、突如として母親が「それは別の子です。」と平然と言いのけた。僕の右前面にいる元担任が、「そうじゃありません!」と懸命に手を振って否定している。前回の指導で、いじめの実態を学校側が母親に十分知らせていなかったことが判明した。
学校は、組織的として問題が山積しているとも僕には映った。陰湿ないじめを、結果として、担任と主任と教頭によるそれなりの対応で、事務的に校長に報告したに過ぎなかった。そうでなければ、「なぜ、二度も同じようなことが起きたのか分析出来ていますか?」と僕から校長への問いかけに、「すいませんでした。」、「申し訳ありません。」の返答はあり得ない。残念ながら、どのように対応し指導したのか、校長の口から一切発せられることはなかった。大岡裁きのつもりで最終局面に堂々と出てきたはずが、罵倒され続け防戦一方である。「僕は命に関わる仕事に従事しています。いつもギリギリのところで仕事をしているんですよ。先生あなた達の仕事は教育ですよね。子供たちを教え育み守ることが仕事ですよね、もうちょっと真剣に取り組んでくれませんか!」、尾崎豊が僕に乗り移った。「何はどうあれ、最終責任は校長ですよね。」僕の言葉が空虚に響くだけである。