院長のコラム

さよならマランツ、ようこそユーセン

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クリニック開設時、あらゆる面で微に入り細に入りこだわった。その一つが院内で流す音楽だった。学生時代、そして勤務医時代入り浸っていた倉敷市にある江川珈琲工房、そこにはいつも、店主が尊敬してやまないビル・エヴァンスのピアノジャズが流れていた。ジャズには疎い、ましてやビル・エヴァンスのことなど知らないに等しかった。けれども、夕刻から黄昏時、コクがあって渋みのある焙煎珈琲を、ビル・エヴァンスの曲に身を任せながら飲んでいると妙に落ち着いた。その経験がきっと染み付いたのだろう、自身のクリニックではビル・エヴァンスをBGMにする、と誓った。

地元に帰って来てから、ちょくちょく訪れるショットバーがあった。お酒を熟知しているマスターなので、その時の気分を伝えるだけでカクテルを作ってくれた。何よりも旬の果物をふんだんに使ったカクテルが大好きで、マスターからメール連絡が来る度に訪れたものである。過去形なのは、諸事情によりその店はもう今はない。その店によく通ったもう一つの理由は、マスターが音響機器に精通していたからである。我々以外のお客さんがいないと、こだわりの音響システムでリクエストに応じてビル・エヴァンスを思い存分に聞かせてくれた。薄暗いカウンターに腰掛けて、美味しい酒に身を任せながらビル・エヴァンスを聞いていると、訳もなくノスタルジーを感じた。

開業する時、クリニックの音響機器をマスターに一任した。「最初、百万円かけるって言ってたのに。」と嫌味を言われながら、大幅に削減された予算内でしっかりしたものを選択してくれた。その一つが、marantz(マランツ)の五連奏CDプレーヤーCC4300であった。夏場にはボサノヴァ、クリスマスシーズンにはコンピレーションアルバム、それ以外はビル・エヴァンスを流していた。快適な音響環境が続いていたが、二年前から音飛びが目立つようになった。CDを専用布でしっかり拭き、プレーヤーをCDクリーナーにかけ何とかしのいできたが、昨年末に末期的な状態に陥った。調べたところCC4300はすでに生産中止であった。時代は、iPodを代表する携帯型デジタル音楽プレーヤーが主流になっていた。昨年から音楽環境をどうするか、ずっと悩んでいた。

思案の末、法人化を機にUSEN(ユーセン)のOTORAKUを導入することにした。店舗BGMアプリOTORAKUがダウンロードされたiPadを購入するだけである。月々の支払いも、iPadの購入も含めて税込み四千円ちょっとで済む。楽曲購入の手間ひま、何よりも著作権の権利処理まで考えれば納得の価格である。職場環境、季節等TPOに応じた多数のプレイリストが用意されているので、いとも簡単にBGMをチョイス出来る。今の季節なら、環境はカフェ、季節は梅雨のプレイリストを選択するだけで院内に快適な音楽が流れる。もし思い通りのリストが無くても、自分でプレイリストが作成できるのも嬉しい。クリニック自体は十年経って経年変化がそこここに見受けられるが、患者さんを受け入れる環境はわずかながらも確実に進化している。

テレビを始めとする家電、パソコン、携帯電話等ありとあらゆる電化製品の進歩は目を見張るものがある。直情径行で情に流されやすい典型的なアナログ人間にとっては、もうついて行けないレベルと言っても過言ではない。けれども、この世に生きている限り文明の進化と情報化を拒否することは出来ない。もう少しだけ無理をしない程度に時代の波にもまれていようと思う。院内の音楽環境を買えただけだが、その劇的な変化に打ち震えおののいていた。ところが今や、診察室から内視鏡室への道すがら、今日どんなラブソングが聞こえてくるのか、BGMに心震わせている今日此の頃である。

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