さらば、マツダ・デミオ
三年前のことである。妻が、連日、和歌山市と田辺市を往復しなければならなくなった。片道約八十、往復で百六十キロ、それが週三から四回ともなると月に約二千キロ、年間にすれば二万キロをゆうに越える距離を走らなければならなくなった。当時レクサスRXに乗っていた。その調子で乗れば三年間で六万キロ近く走ることが予想された。開業して以降、即ち経営者になってから、三年の車検をめどに車の買い替えをしている。したがって、いかに効率的に車を乗り換えていくか、つまり下取りをいかに高くするかを考慮しながら車の買い替えをしている。三年で六万キロは、いわゆる過走行車になる。下取り価格はぐっと下がる。どうしようか思案していた。
ちょうどその頃、義父が、長年乗った軽自動車の買い替えを検討していた。現在の軽自動車は、価格は決して軽ではない。クリニックスタッフから、欲しい装備を付けていけば二百万近くすると聞いていた。それなら、ホンダのフィットやトヨタのアクアが買える価格帯である。義父母と我々夫婦で相談して、車を共同購入することにした。折半するので価格は二百三十万前後、後期高齢者の義父が扱いやすく、和歌山と田辺を高速道路で頻回に往復するためボディ剛性が優れていて、夜間に走るため全車速追従付クルーズコントロール等安全機能が装備されていることが必須であった。普段、比較的高価格帯の車しか見てこなかった僕には超難問だった。思案の末、マツダ・デミオ1500ccのディーゼルエンジンを選択した。購入したモデルは、ベージュのスウェード調の内装が施された特別仕様車だった。個人的には色鮮やかなソウルレッドにしたかったが、義父の普段使いには派手すぎるとの猛反対でこれも特別色のマシーングレープレミアムメタリックを選んだ。
時々借りてデミオを運転させてもらった。ホンダのS660とまではいかなくても、狭い道の多い市街はお手のものである。高速道路でも直進安定性が優れていて、ある程度のスピードを出してもハンドルがブレることはなく、追い越しでも、ある程度の加速力がある。車に価格ヒエラルキーがあることは周知の事実である。高性能、安全性、特別性を求めるならお金をかけなければならない。デミオは二百万円台前半の価格帯ですべての安全装備が付いていて、内外装ともに欧州車風で日本車然としていない、色々な意味でクラスレスな車だった。何よりも燃費がよく、リッター20を切ったことがない。
そんなデミオが今年十二月、とうとう車検を迎えることになった。義父はもうそんなに車に乗る機会がなくなったため、我々に今後を一任するとのこと。三万五千キロほど乗って過走行気味なデミオを買い取り業者に見積もってもらったところ、新車価格の48%だった。最低でも半分以上を目論んでいた僕には、「ううん、背の低い車の下取りはやっぱり厳しいな。」が現実であった。ところが、買い替えを検討していたディーラーに見積もってもらったところ54%が出た。現在の中古車市場相場価格である。ドナドナすることを即決した。ところで、ドナドナとは、車を買い取りや下取りに出す際のスラングだそうだ。
次期車両は、下取りプラス残価設定に加えて、三年間の支払い総額を約二百万と設定して購入することにした。次車は日常生活使いが主であり過走行にならない。三年以内に買い替えることは決定している。自分の趣味嗜好を極力排除して、次回の下取りだけを徹底的に考慮することにした。それと、デミオで学んだコンパクトでクラスレスな車を意識した。その結果選んだのは、、、