とあるイベントにて
日本漢字能力検定協会が主催した「今年の漢字」に「密」が選ばれた。自分自身は圧倒的に「禍」と考えていたが、「禍」は第二位のようである。コロナウィルスは、以前から風邪の原因ウィルスの一つとしてよく知られていた。したがって僕は、「新型というだけで大した事はないだろう。」と当初高をくくっていた。けれども今や、周知のような惨状である。2020年はCOVID-19が世界中で猛威を振るい、オリンピックが延期された年として歴史に刻まれることになるだろう。私的には、経営的にも精神的にも辛い年になった。けれども、世界的事象を体験・体感できたことは、ある意味貴重だと感じている。両親が経験したことのない世界を目の当たりにすることが出来た。振り返ってみれば、2020年はAIやITの革命元年になるに違いない。そう考えれば、「今年の漢字」は「新」でもある。
いつものように前振りが長くなった。このような状況下、昨年参加した各種イベントはことごとく中止となった。イベント好き人間にとっては、じっと耐えなければならない年になった。このご時世、同調圧力が蔓延している最中、イベント開催者も参加者も周りの目が気になるのは止むを得ない。そんな中、とある会社の担当者から催事への案内の電話が入った。イベントの趣旨は「日頃のご愛顧に感謝」らしく、美味しい料理と素敵な音楽を楽しんでいただきたいとの触れ込みだった。数年来の付き合いだが、今回が初めてのお誘いである。「声をかけてもらえるうちが華」とばかりに出席することを快諾した。「つきましては長嶋さん、当日は必ずドレスアップして来てくださいね。」と担当者、思わず「◯◯さん!誰にものを言っているのですか(笑)!いつものように行けばいいんでしょ。」と僕は切り返した。天の邪鬼な僕は、ラメの入った黒のロングジャケットにフェイクファーのついたスカート、胸元にはコム・デ・ギャルソンのパールネックレスを身に纏うことにした。今回のセットアップはいみじくも、紀州のドンファンに招待されたイベントの際に勢い込んで着て行ったものである。
十二月初旬、ホテルで開催されたイベントに参加してきた。主催者に迷惑をかける可能性があるので詳細は控えることにする。初参加の我々夫婦は、見るもの聞くものすべてが新鮮だった。参加者、特に女性を見ていると全てが分かる。持っているバッグはエルメス、ルイヴィトン、もしくはシャネル、錚々たるバッグに終始目が惹きつけられた。装いもエレガントで、トータルコーディネートがしっかりされているように見受けられた。以前参加したランボルギーニのイベントのそれとは随分異なる印象、前者はオールド、後者はニュー、両者ともお金は持っているが使い途がきっと違うのだろう。素性の知れた京阪神地区の富裕層と呼ばれる方々が招待されているに違いない、そう直感した。「えっ、俺も富裕層なのか?」一瞬勘違いしそうになった。我々夫婦は、担当者のお計らいでどうにかこうにか末席を汚すことが出来たのだ。しかも、担当者の「ちょっとした料理と音楽を楽しんでくださいね。」という淡泊なお誘いとは裏腹に、本格的なフレンチのコースに、ペアリングされたワイン。音楽は、有名バイオリニストが奏でるストラディバリのヴァイオリンとピアノの二重奏だった。(つづく)