アマンキラ
アマン初日
空港からホテルまで約一時間半と聞いていた。それくらい経った頃、山間の本道から車一台がようやく通れるくらいの小道へ突然車が右折した。凸凹道を数百メートル走らせた地点で一旦停止、アンダーボディを含めた入念な車のチェック後、ホテル玄関へ通された。このチェックは宿泊したすべてのアマンで行われていたので、最終日のチェックイン時は「これって儀式でしょ。」と一瞬頭をよぎったが、ホテルに入る前からセキュリティチェックをしっかりしていますよ、というホテルの意思表示の現れに違いないことを今回の滞在を通して理解できた。
エントランスとロビーが一体となった吹き抜けのコンパクトなロビーの眼下には、棚田のように三つのプールが配置され、その向こうには広大なインド洋が連なっていた。空の青、海の碧、プールの蒼、アマンキラの印象を一言で言えばブルーと言っても過言ではない。
全室スイートルームのアマンキラでの我々の部屋はナンバー36だった。部屋というよりもコテージと言う方が理解しやすく、隣のコテージとは数十メートル離れていてプライバシーが完全に保たれていた。部屋でチェクインを済ませ、夕食までしばらく時間があったのでプールで泳ぐことにした。赤道に近いにも関わらず、乾季で海に近いせいか少し肌寒いくらいだった。誰もいないプール内で体を横たえ自分の呼吸と水の音を聞き、紺碧の空に浮かぶ透き通った月を眺めていると神秘的な気分になった。
夕食はプールそばのレストランで絶好のロケーションだった。メニューを渡されても内容がほとんど分からなかったので、無難に異なる2種類のコース料理を選択した。スタッフから「グッドチョイス!」と声をかけられ安堵したのも束の間しばらくしたら、夫婦でシェアしながら食べるのなら大きなテーブルがいい、とスタッフに勧められ家族席に移動することになった。訳もわからないまま待っていると、中皿7枚が一列に並べられた舟盛りのようなものが二つ運ばれてきた。コース料理は一品ずつ運ばれてくるもの、という先入観があったのでこれには面食らった。他のテーブルの人達は、潮風を浴びながらゆっくりまったりした一時を過ごしているのに我々のテーブルだけが祭の酒盛り状態になってしまった。英語を理解していない日本人が料理をテンコ盛りに頼んだに違いないと思われるのが嫌で、普段意見が全く合わない夫婦が、日本人魂として食事を残すわけにはいかない、とフーフー言いながら必至になって完食した。
長旅の疲れに動けないくらいの満腹状態、しかもテレビも無ければネットもない、持参したiPodでユーミンの曲を聞きながら寝るまでの時間を時の過ぎゆくままに過ごした。潮騒、花鳥風月を感じながら、爆睡とはこのことだろう、と思えるくらい近年稀にないくらい熟睡し気持ちよく朝目覚めた。
昨日の夕食で得た教訓をもとに朝食はコースを頼まず、一品ずつ少量ずつ注文した。その際、朝食には新鮮野菜!と考えている僕は、ベジタブルのコーナーに有った一品を指差した。しばらくして運ばれてきたものを見て愕然とした。端的に言うと、そのまんまのゲロが運ばれてきたのである。オートミールと言う言葉は知っているが、初めて実物を目の当たりにした。日本人魂として食事を残すわけにはいかない、生温いベチョベチョの微妙に甘い全てに中途半端な料理を朝一番から気合で食すことになった。
もうイヤだ!!!と内心思ったが全ては自分の選択、享受するしかない。