パテックフィリップとルイヴィトン(3)
三時半過ぎには住友ビル会場をあとにして、新宿からタクシーで虎ノ門にあるホテルオークラ東京に向かった。ルイヴィトンのセッションは四時から一時間半の枠。移動を何かと考慮して、その日はホテルオークラに泊まることに。ロビーには、映画「マトリックス」に出てくるエージェントを思わせる黒服の人間が何人か立っているものの、同ホテルで大規模なルイヴィトンのイベントが開催されている風情は感じられなかった。黒服に名前を伝え、エレベーターで最上階に近い特別階に案内され担当へバトンタッチ。ルイヴィトンの調度品で彩られたスイートルームは、眼前に見える都心の光景と相まって別世界に誘われた感覚に。「あーあ、こんな世界もあるんだぁ。」ため息しか出ない。
(ここから書くことは僕が経験した私見で、ルイヴィトン・ファンは読まないことを勧めます)パテックフィリップしかりルイヴィトンしかり、今回のイベントはブランド独自の世界観を顧客に提示する重要な場。けれども、ハイクラスと思われる招待客(我々夫婦を除く)の雰囲気は全く異なっていた。パテックフィリップの特別室では、スマートカジュアルだがドレスコードを求められた。襟のあるシャツもしくは上着着用でスニーカーやサンダルは厳禁。そのためもあり、僕の目に映るゲストは皆上品に見えた。もちろん、椅子にふんぞり返って大声を出しているような輩はいない。かたや一方のブランドの男性陣は、ロゴの入ったブルゾンもしくはフーディーにTシャツ、そしてデニムにスニーカーと全身同一ブランド。どう安く見積もっても総額100万はくだらない。Tシャツにデニムと言えば、我々の世代なら吉田栄作。彼とまで行かなくても、ある程度引き締まった身体なら映(ば)えるのだが、下腹がポコっと出てなまっているというか、ゆるいというか、そのせいかどうも「お値段以下」にしか見えない。お金があって体型が生温い方々なので、他人に対する高飛車な言動が気に障る。「ラグジュアリーな世界と言っても、色々な人がいるなぁ。」、一日に二つのブランドの展示会に参加してみて妙に感心した。「そんなら、あんたら夫婦はどうなんだ。」と突っ込まれそうだが、我々夫婦は何時・何処へ行っても安心・安定の「エイリアン」状態、怪訝な面持ちで見られるだけ。もうすっかり慣れてしまった。
ところで、僕が気になっていたトランクは何処にも見当たらない。尋ねたら、個数限定のためもうすでに完売していてディスプレイから仕舞ったそう。ルイヴィトンと言えばバッグのイメージが定着しているかもしれないが、僕的にはトランクと考えている。時計収集がある程度進むと、収納ケースが必要になってくる。あれこれ試してみた末に出くわしたのがコフレ8モントル。決して大きくないものの重厚感が半端なく、ルイヴィトン伝統のトランク作りのノウハウが小さいながらに凝縮されている。リペアサービスもしっかりしていて、考えようによっては一生物である。パテックフィリップやロレックスの腕時計同様、ルイヴィトンのトランクを譲られて拒否する人はきっといないだろう。「父から子へ、世代から世代へ」、パテックフィリップの広告が示すように次世代にバトンタッチできるものがヴィトンのトランク。ラグジュアリーなゲスト同様、決して店頭に出て来ない貴重なトランクの実物を観ることができ社会勉強になった。