ラウール期〜ヨウジヤマモト2023春夏〜
前回の秋冬は、トーンが暗くオーソドックスなスタイルで重々しい印象だった。来シーズンの春夏は一転、明るく軽やか、遊び心満載でベロアとパッチワークのセットアップシリーズが個人的にはちむどんどんした。コレクション終了後、別会場で細やかなレセプションがあったようだが、特段案内もなく流れに身を任せて移動していたら帰宅の途につかざるを得なかった。タクシーを待っていたところ、ヨウジを着たカップルに『「迷惑ですか 生きてるだけで」だってぇ。アハハッ!』と追い越しざまに笑われたのには面を食らった。前回同様、その日の深夜、パリ時間の夕刻にコレクションが初配信されるため、それまでは撮った画像や映像のSNSでの発信は厳禁だった。ホテルに帰室後、明朝に備え早い目にベッドにもぐった。
翌朝、羽田空港に移動中ネットニュースを見たら、「Snow Manラウール パリコレデビュー!」の文字が踊っている。「???雪男ラウール?そんな人出てたか?」、まさに狐につままれた気分である。内容を読むと、どうもジャニーズ事務所に「Snow Man」というユニットがあり、ラウールと言うのはその一員だそうだ。僕がバレエダンサーの首藤康之さんと思い込んでいたのが、実はラウールだったようだ。錚々たる俳優陣の出演を抑えてネットニュースで一番の話題になっていた。帰宅してからyou tubeで昨日の映像や関連するニュースを見ていたら、ラウールのパリコレ出演に非難轟々、彼のダンスに失笑等否定的なものも散見された。コレクションの現場にいた者として真実を語るなら、大半の方が彼のダンスに意表をつかれたものの失笑が漏れることはなかった。むしろ、彼のパフォーマンスは他の俳優陣の存在感と比較しても圧倒的だったように感じた。ジャニーズ事務所所属のアイドルという先入観や予備知識が全く無かったので、彼のコレクションでの存在はむしろ新鮮で清々しかった。たのきんトリオから始まってほぼ嵐で終わっている中高年にとって、「ジャニーズにもプロ(モデル)顔負けの容姿と体型を持った、かつ物怖じせず立ち振る舞えるタレントがいるんだ!」と事務所の層の厚さと奥深さを改めて感じた。
コレクションが終了して、しばらくしてから関西のヨウジショップを訪れた。スタッフから今回のコレクションの感想を尋ねられた。個人的には前回よりも気になるスタイリングが多かったこと、その一つはラウール君が着ていたパッチワークのセットアップであることを伝えた。すると、「コレクションが終わってから、結構問い合わせがあるんですよ。もう一体のロングジャケットとショートパンツの組み合わせも人気ですよ。」と。ヨウジヤマモトのコレクションは、象徴的なイメージや取り上げられたモチーフで語られることが多い。この秋冬なら、モデルで出演した松重豊さんのインパクトが大きく「松重期」、もしくは画家ズジスワフ・ベクシンスキーの作品が多く取り入れられていることから「ベクシンスキー期」と言えば、ヨウジファンやスタッフの間で通じる。コレクション後の世間の反響、スタッフの直の印象を鑑みれば、僕の中では来春の呼び名は決定した。語感のよさも伴い、「ラウール期」で間違いない。この暑いさなか、1年も先のことに思いを馳せている中年男である。「こんな時代(感染症や侵略戦争、暗殺)だから、メンズのパリコレは東京から発信すればいいのに。」と三匹目のドジョウを狙っている。