ランゲアンドゾーネの大英断
知る人は知っていると思うが、現在、ロレックスのスポーツモデルには購入制限がかかっている。同一モデルは五年間、異なるモデルなら一年間購入できない。例えば、僕がステンレスのデイトナを購入できたとして、以後五年間はデイトナを購入できない。この一年後にサブマリーナーを購入して、次にGMTマスターIIが欲しくなっても一年間は買えない。購入する際には照会にかけられる。ゴーサインが出れば、さらに顔写真付きの身分証明書を提示しなければ買えない。これはあくまでも正規販売店での話で、割愛させてもらうがロレックス時計全般に渡っての話でない。
昨年末から、正規販売店と特約店(卸問屋)、および特約店間の共通の顧客情報を作成して管理運用しているらしい。自分の個人情報が異なる特約店に流れることは危惧されるが、現在の過熱した状況を鑑みると致し方ないことだと思う。正規販売店には、連日数十件以上の電話の問い合わせがあり、同程度のお客さん(?)が毎日「デイトナありますか?」と来店するらしい。そのために取られる販売店の手間暇、労力は如何ほどのものだろう。定価百四十万弱のデイトナを定価で買ってそのまま並行店に持ち込めば、百万円程度のお小遣いになる。いわゆる転売屋だ。もっとたちが悪いのは、百貨店の外商顧客という話もある。このあたりのことは、特約店が状況をしっかり把握しているからこそ今回の措置に踏み切れたと思われる。人気モデルの購入制限は、あくまでも特約店独自のもので日本ロレックスは関与していない。
イントロが長くなった、ここからが本題だ。先日書いたコラム「とうとうパテックフィリップ!」の文章に添えた写真は、昨年末ランゲアンドゾーネから発表されたオデュッセウスである。ランゲ初のステンレススティール(以下SS)製のスポーツウォッチである。「これは絶対に良い!」、以前からランゲの時計のことは気になっていたし、人気モデルになるのは目に見えているので発表早々正規店に予約を入れた。今年の三月までは直営店のみで販売され、四月以降正規店でも販売されるようだ。価格はそれなりだったが、生産数の少ないランゲの人気モデルになるであろうから、二年後の購入を目指して昨年末からランゲ貯金をしていた。
「先生、申し訳ありません。」、先日販売店から謝罪の電話が入った。今回、オデュッセウスを購入するには二つの条件があるようだ。一つは以前に九百万円以上のランゲの購入履歴があること、もう一つはオデュッセウスと同等以上の時計と抱合せで購入すること、だそうだ。人気モデル故に直営店ではそのような条件が課されることは理解できるが、直営店での購入条件を販売店にまで拡げることはいかがなものだろう。ほとんどの正規販売店が他のブランドも取り扱っている。その販売店の上顧客に対して、「あなた様は(他のブランドをたくさん購入されている)我が店舗のお得意様ではありますが、残念ながらランゲは初心者なので今回は特別の理由により購入できません。」とさらっと言えるだろうか?そもそも論で言えば、価格的にはランゲのエントリーモデルである。それはすなわち、深淵なるランゲワールドに導くためのモデルである。なのに、限定モデル並みのハードルを敷いている。なら、最初から購入制限をかけておけばいいではないか。もっと言えば、今回のランゲジャパンの抱合せ商法は独占禁止法に抵触する可能性があることを付け加えておく。
昨年九月、ランゲアンドゾーネジャパンのCEOには女性が就任した。長年トヨタや日産のマーケティングに従事し、前職はポルシャジャパンの執行役員だった人である。女性らしいおもてなしを持ってランゲアンドゾーネの日本におけるマーケティングを行うかと思いきや、いきなりの殿様商売である。多少区別はされたかもしれないが、ランボルギーニでもパテックフィリップでも受けたことがない仕打ちを受けた。ロレックスの人気モデルに対する購入制限は理解できても、ランゲジャパン自ら主導する今回の大英断に対してはどうも納得が行かない。おかげさまで煩悩は吹っ切れた。「ランゲアンドゾーネは、どんなことがあっても絶対に買わない。」と。