ローマの休日
画家の古畑雅規さんと知り合ってもう20数年になる。長野県松本市在住の古畑さんと和歌山県田辺市在住の僕が、北海道札幌市で出会うなんて奇跡を通り越して運命としか言いようがない。初個展以来、自宅とクリニックのために少しずつ作品を購入してきた。古畑さんが持つ独特の世界観、粘土と絵画を組み合わせた唯一無二の技法は見るものを惹きつけて止まない。自宅を訪れる人々、クリニックを受診される患者さんから高評価を得ている。大阪での個展への表敬訪問、作品の納品等でほぼ毎年会っていたが、コロナ禍による個展の中止や移動制限等しばらく対面で会うことはままならなかった。11月19日、阪神梅田本店での個展にしばらくぶりに伺ってきた。
独立開業してまもなく、5Lの大排気量V8エンジンを積んだレクサスISFが発表された。当時、2.5LエンジンのIS250に乗っていた身にとって、倍の排気量と倍近い価格の高性能車は高嶺の花だった。経営的にまだまだ発展途上だったけれども、「国産のV8エンジン車に自分が乗れるなんて!」を想像したら居ても立っても居られなくなった。思い切って清水の舞台から飛び降りることにした。それは、自分の人生において画期的な出来事であり、記録として記憶として記念として遺して置きたいと考えた。そこで浮かんだのが古畑雅規さん。モニュメント的意味を込めて、クリニックとISFを題材に古畑さんに作品制作をお願いした。クリニックとISFは夜の帳の中、神秘的そして幻想的に描かれ、自分が想像していた以上のものに仕上がった。以来、エポックメイキングな車を購入した際には、自分が建てた建築物とともに作画を依頼してきた。ホンダNSXしかりランボルギーニ・ウルスしかり。
昨年末、想像だにしなかったフェラーリ・ローマが納車された。これも僕にとって空前絶後の事象でありメモリアルであった。年初、介護施設を背景にローマを描いて欲しいと古畑さんに制作依頼した。僕と同じクルマ好きな古畑さんは、ローマをとにかく褒めてくれ「やり甲斐あります。」と快諾してくれた。これまでの作品はなぜか夜がモチーフだった。今回は一転、朝焼けが題材になっていた。「積載車から降りてきたローマを見た時、神々しさを感じました。」の僕の一言に触発されたからだろうか。作成途中に送られて来た作品には眼を見張るものがあった。これで完成と思いつつ、「神々しさを表現するためエンジェルを入れるのはどうでしょうか?」あろうことか画家にむかって提案する暴挙に出た。「素人ごときに!」という思いはあったかもしれないが、対応してくれることになり、互いの思いに齟齬が生じないよう作品を見ながら意見をすり合わせる予定になった。けれども時間が取れず、最終的に古畑さんに一任することとなった。天使と言えばキューピッドを思い描いていたから、翼を持った女神を見てたまげた。
久しぶりの会食は時間を忘れるくらい楽しく、開始時間が遅いこともあり日を跨いでしまった。古畑さん曰く、今回の作品名はまさに「ローマの休日」。今回の個展には間に合わなかったため、次回の個展に参考出品し来年納品になるとのこと。今回気に入った小作品とともに納品と再会が待ち遠しい。気に入った建築家に自宅と仕事場を建ててもらい、その空間にはお気に入りの画家の数々の絵画。生きた証として存在感のあるものを遺せているように感じる。僕は本当に幸せ者だとつくづく思う。