ワクチン難民
休診もしくは午前診のみの水曜午後はスイミングが日課である。平日のお昼時は我々のような現役世代はほぼいない。高齢者、もっと言えば後期高齢者世代の方々が圧倒的に多い。コロナワクチン接種が始まった頃、プールでのもっぱらの話題はワクチン接種を受けるかどうかだった。「副反応、結構起きるんやろ。」、「血栓出来るんやろ。」、ワクチン接種を優先されていた人々の反応は、当初様子見ムードが漂っていた。ところが、しばらくすると「もう打った?」、「えっ、まだ打ってないの?」、「(副反応は)思ったほどではなかったわ。」、という言葉が行き交うようになると、小さなコミュニティでは居心地が悪いのだろう、打たないという選択肢や意見はいつの間にか消え去った。ワクチン接種に重要なのは初動、そうでなければ同調圧力と付和雷同だと感じた。
僕は、COVID-19の診察・治療には従事していなかった。医療従事者として忸怩たる思いでいた。ワクチン接種が始まれば、打ち手としてCOVID-19に貢献寄与することを誓っていた。1瓶から6人分のワクチンが採取出来る。したがって、高齢者のワクチン接種が始まった当初は、1日6名(シリンジの関係で開始時は5名)、週に30名程度の接種を行った。受付、問診、接種、接種後の経過観察、流れは十分に把握理解出来た。目論見通り、64歳以下の希望者には「かかりつけ」という言葉を取っ払うことにした。接種券が一斉に配布されるやいなや状況は一変した。1日6名では到底間に合わず、直様2瓶12名に増やした。スタッフの順応ぶりには眼を見張るものがあり、現在は1日に18名の接種を行っている。これでも闇雲に受けた予約は解消できず、休診の水曜日をワクチン接種日にした。なので、8月になって毎週100名強にワクチンを接種している。9月もほぼ同様の予約を受けている。
64歳以下の接種が始まって1ヶ月半ほど経つ。初動の早い方、知人・友人、クリニック関係者は、ほぼ2回の接種を終えている。徐々にワクチン接種者が浸透しつつある状況の中、COVID-19新規感染者が猛烈な勢いで増している。数人の感染者が散発的に報告されていた当地も、連日10人以上報告され、8月の累計は現時点で180名にのぼる。この段に及んでようやく知人から、「(ワクチン接種)なっとかならん?」、「予約取ってくれんの。」と連絡が入るようになった。休診日にワクチン接種日を設けても満杯の状態で、これ以上枠を増やすことは出来ない。何よりも、9月もワクチン供給量は制限されているため増やしようがない。「もう少し早よ言ってくれたら何とかなったのに遅すぎるで。何で今頃?」、思わず語気が荒くなる。「すいません、気がついたらワクチン難民になっていました。」との返答。言い得て妙である。しかし、如何ともし難い。
僕には、新型コロナワクチン接種の是非を問う権利はない。不特定多数の患者と接する職業である。ウィルスに感染らないため、ウィルスを感染さないためにもワクチン接種は義務だと思っている。それはともかく、個別・集団でのワクチン接種状況を見ていると、改めて初動が大事だと実感している。様子をうかがい周りを見ていると、面倒くさい時間がないと後回しにしていれば、気づいた時には取り残され茫然自失するほかない。連日、ワクチン接種の問い合わせ電話が多数入る。ワクチン接種した人は油断することなく、接種出来ていない方は更なる感染対策の周知徹底および行動制限をお願いするばかりである。