三度目の発表会
十二月三日、自身三度目のギター発表会があった。前二回は、カルチャースクール二階にあるスタジオでの発表だった。演者と聴衆が間近で対面する形なので、演者の一挙手一投足に参加者全員の目が注がれた。自分の専門のことならなんてないのだが、普段でさえ慣れていないギターの演奏会である。初めて人前で演奏した時の緊張は今でも忘れられない。今回は趣向を変えてカフェ・バーでの発表だった。奥行きがある縦長の店舗で、簡易にしつらえられたステージはカウンターの正面にあった。したがって、視界に入る観客は五、六人程度で、残りの二十数人は存在しないと言っても過言ではなかった。リハーサルをしてみても、緊張の度合いは前二回と全く異なった。
今回選曲した二曲はコブクロのものにした。シャッフルビートの練習に先生が勧めてくれたのが「流星」だった。僕は知らなかったが、竹野内豊主演ドラマの主題歌だったようで、カラオケで歌うと「ドラマの曲やろ、いい曲やなー。」何人もから声をかけられた珠玉のラブバラードである。もう一曲は「Million Films」を選んだ。これも知らなかったが、結婚式の披露宴でよく歌われるラブソングだそうでコブクロの隠れた名曲らしい。特徴的なイントロを弾きたくてこの曲を選択した。二曲ともアルペジオ(爪弾く)とストローク(かき鳴らす)が混ざっていて、先生から人前で発表するには不安定なことが懸念されていた。僕のモットーは「失敗から学ぶ」である。ストロークだけなら何とか出来る、ごまかすこともどうにか出来る。けれども、聴衆の面前でそつなくやり過ごして何か得られるものがあるだろうか。案の定、本番では失敗した。妻から「ショックでしょ。」と聞かれたが、練習不足が原因と分かっていたから想定範囲内であった。むしろ今回、しらふでギターを持って気負うことなく歌えたのがとても嬉しかった。
今回の発表では、決定的な男女格差を見せつけられた。演者は八人、男性が五、女性が三、男性の平均年齢は五十代前半、女性は二十代前半である。男性陣はほぼ譜面を見ながらの演奏なのに、女性陣は丸暗記、しかも全員がオリジナル曲を披露するではないか。男性軍は一年前と全く変わらず、女性軍は格段の進歩である。彼女達には悔しさを通り越して感心することしきりだった。男組は趣味もしくは認知症予防程度の軽いノリ、女組はまるで本業かのような真剣な態度、同じ教室員とは言え、男女で取り組む姿勢が全く異なることが今回判明した。たった一年ちょっとでオリジナル曲を披露できるまでにした先生の指導力能力には脱帽するばかりである。とはいえ、この格差を聴きに来ていた人たちは、どう感じたことだろう、演者である自身でさえ戸惑ったのだから聴衆は尚更のことだろう。この点は次回の発表会に活かすよう先生に進言させてもらった。
年齢的にも社会的にも落ち着くべき五十歳を過ぎて、なお恥をかいている。恥をかかない方法は簡単である、何もしなければいい。何もしなければ自分を取り巻く世界は何も変わらない。何も変わらなければ、ただ生きているだけだ。僕にはもっとやりたいことがある、もっとやれるはずだ。人生のゴールが見えつつある現在、もっと恥をかこう、どんどん失敗しようと思っている。そうすれば、もっともっと人間として成長できるような気がしている。