今井美樹 CONCERT TOUR 2024 “Our Songs!!”
社会人よくあるある話。親からの支援で生きてきた何者でもない人間が、労働者として社会に放り込まれた瞬間、自分自身は何も変わっていないつもりでも周囲の見る目が激変する瞬間を今でも忘れられない。当時は、医師国家試験合格可否は五月過ぎ。合格していようがいまいが、四月から就職先予定病院で医師としてのレクチャーを受けなければならない。国家資格の有無を問われることなく、否が応でもパラメディカルから「先生!」と声をかけられる。一ヶ月前まで「先生!」と呼んでいた側が「先生!」と呼ばれるのだから、狐につままれた感じ。そんなお客様気分はたった一月で、資格を取るや否や、耐えられない重圧に曝され、学生時代のモラトリアムはすべて白紙状態に。
学生時代よく聞いていた音楽も一旦リセット、今井美樹さんのことはリスタートすることなく思い出の一隅に。今井さんのことはゴシップ記事で、「恋多き女」、「略奪愛」のレッテルで知る程度。それでも楽曲「PRIDE」を初めて聴いた時、「今井さんらしいなぁ。」感慨深かった。当時僕は、大学院生として今後の生き様を模索し悩んでいた時期。「私のプライド」を歌った歌詞に、「僕のプライド」も重ねた。その後、今井さんは「PRIDE」を作詞・作曲した布袋寅泰さんを伴侶とし、生活の拠点をロンドンに移したことくらいは存じ上げていた。社会人になってから約三十年強、今夏、ローソンチケットから今井さんのツアー案内が届いた。ユーミンの「青春のリグレット」の一節ではないけれども、「🎶今でもあなただけが青春のリグレット」、青春の後始末のため、10月5日土曜、フェニーチェ堺へ。
コンサートに行くにあたって再び彼女の曲を聞き直した。先ずは、彼女の透明感ある心地よい声質を再認識。令和の女性ボーカルヒット曲と言えば、ビートの効いた音調にキンキンした高音かがなった音声。検査・治療中の気持ちが高ぶった時にはそれもいいけれど、デスクワークや寛ぎたい時には逆効果で落ち着かない。心地よい声色と彼女をイメージしたメローな楽曲は、こうして駄文を書いている時にも最適。そう言えば、医師国家試験の勉強中にもバックミュージックで流していたのを思い出した。CONCERT TOUR 2024“Our Songs!!”は、同世代のミュージシャンと同様二部構成。我々の席はステージを背景に左翼中列席で程よい距離感。「瞳がほほえむから」から始まったコンサートに懐かしさのあまり思わず目を細めた。
スローテンポな楽曲が多かった第一部とは異なり、第二部からはアップテンポな曲も。と同時に、昔からのファンは席を立って手拍子。初参加でしかもセットリストを予習していないから、どのタイミングで立っていいか分からず、「どこで立てばいいの?」自問自答しながら結局第二部もずっと座ったままに。起立を強制されるわけでもなく我々の周囲もまちまちの反応。アンコールは、鮮やかな真っ赤なドレスに衣装チェンジして「PIECE OF MY WISH」から「PRIDE」へ。こうなればノリで盛り上がるとかではなく、会場全体がスタンディングオベーション。鳴り止まない拍手喝采に今井さんは何度も感謝の言葉を述べた。初参ながら次回もぜひ参加したいと思った。
埋められなかった青春のワンピースを、また一つ埋めることが出来た。それは、思い出の中の杭(悔い)を一つ抜くことが出来たことにもなる。まるで、蒔いた種を刈り取るかのような気分。人生の終盤に差し掛かっても人生は面白いものだ。