院長のコラム

令和版・白い巨塔(2)

今回の「白い巨塔」を見て、新鮮さを感じたこともあった。役者としての沢尻エリカである。一時期、高慢ちき、高飛車、上から目線、生意気等、世間から総スカンを食らった女優である。主演舞台の挨拶での横柄な態度が大バッシングを受けた。僕の持論の一つに「職業人である前に人間たれ」がある。彼女のことはほとんど知らなかった。けれども、自論とそのイメージで持って彼女の出る番組やドラマは避けていた。今回、素直に「いい女優さんだな。」と思えた。

ふと、「白い巨塔はあと何度映像化されるのだろう?」と頭をよぎった。財前五郎のように野心や情熱、卓越した技術だけで教授になれるような時代では最早ない。教授になるためには、一流雑誌への掲載論文数が重要視される時代である。例えなれたとしても、この情報化社会である。ドラマの中で展開されたような言動や医療ミス、パワーハラスメントがあれば、匿名の名のもとに掲示板にさらされ一気に流布してしまう。一昔前までは医局制度のもと、教授を頂点とするピラミッド型の権力構造が確立されていた。教授には、すべての権力が集中していた。特に人事権の掌握は絶大なもので、医局に所属している医師は地方へ飛ばされないよう立ち振る舞わなければならない。僕がまだ研修医の頃、教授に結婚の仲人を頼まなければ即地方、頼む場合は指一本、医学博士取得も(甲)なら指三本(乙)なら指十本のお金が必要と実しやかに言われていた。医師を派遣される関連病院も、医局から医師を派遣してもらわなければ経営が成り立たなくなる。研究費や寄付金という名目の上納金を支払わざるを得ない。これは製薬会社も同じで、きっと莫大なお金が動いていたに違いない。一昔前なら、我々末端の医局員でさえ高級料理店で接待を受けられたのだ。これが教授なら言わずもがなである。とにかく、権力が集中するところにはお金も集中するものである。

時代は変わった。2004年に新研修医制度が導入された。研修医が自由に研修病院を選択できるようになった。かつて、医学部卒業生の七割が大学病院、残り三割が臨床研修病院を選択していた。今やその比率は四対六である。入局者が三割も減ったということは即ち三角形のピラミッドが形成されなくなる。そうなればどうなるか、火を見るよりも明らかだ。教授を頂点とした大学医局の序列制度は崩壊しつつある。入局する医師数の減少は、医師斡旋業も担っていた医局の弱体化を意味する。昔なら教授に任せきりだった治療薬の選択、医療機器の導入も、医師を含めた第三者委員会が費用対効果をはじくようになった。今はもう、製薬会社はボールペンの一本もくれない。寄付金と称する使い道の分からないお金は出せなくなった。製薬会社はきっちり申告し、もらう相手方(医局)も領収書を出さなければならない。怠れば脱税で告発される。社会一般では当たり前のことだが、遅ればせながら医学界にも透明性が強く求められるようになった。「教授になることの旨味なんてもはやない、学問を純粋に好きな人が教授になる時代だ。」と僕は考えている。

後日談。ドラマ通の不動産会社社長に、「今回の『白い巨塔』どうだった?」尋ねてみた。「どっちがいいとは言いにくいわ。描かれ方が違うし、微妙に内容も違うしな。それぞれに良かったわ。岡田君の財前も迫真の演技で良かったわ。」、得心した。僕は令和版から見ているので、平成版を見直したら先に見た印象で平成版に物足りなさを感じるかもしれない。逆の場合だってあり得るかもしれない。「白い巨塔、平成版と令和版どっちがいい?」論争は不毛な議論のように感じた。「今カノ(今の彼女)、元カノ(元の彼女)、どっちがいい?」、「今カレ(今の彼氏)、元カレ(元の彼氏)、どっちがいい?」の論争と同じようなもので白黒つかないものだから。

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