千里の馬
僕は相当短気である。最終判断を求められる理事長という立場上、思案していたら物事が進んでいかないから即決するようにしている。判断を急ぐのは性格的な素因もあるが、直感を大事にしているからでもある。「正しい判断」なんて誰にも分からない、決定が間違っているなら直ぐに修正すればいいと考えている。したがって、他人にも直ぐに結果・結論、行動を求めたがる傾向にある。特にビジネス上の付き合いの場合、それが顕著である。愚鈍と判断したら即刻取引中止である。
クリニックの薬剤担当のN君がこの十二月で転勤になった。クリニックの行事ごとでは積極的に幹事を務めてくれ、私的にもギターの練習をしたり飲みに行ったりと公私にわたる付き合いをさせてもらった。クリニック担当が彼に変更になった際、正直不安であった。決してキレる(仕事が素早い)タイプではなかったし、話をしてもあまり噛み合わず、良く言えば天然、悪く言えば鈍重な印象であった。通常なら担当をチェンジしてほしいと言いたいところだったが、相手がボケならこっちはツッコミで行くしかない、付き合い方を変えることにした。そう思わせたのは、直感で彼が真面目で嘘をつく人間でないと感じたからだ。以来、彼の仕事仲間、僕の飲み仲間、皆から愛されるキャラになった。人伝に聞いたところに拠ると、ある意味今回の転勤は栄転だそうだ。彼のステップアップを心底喜んでいるが、彼がこの地から去るのは正直寂しい。
十二月八日、第二十一回長嶋雄一クリニックカラオケ大会が開催された。今回のカラオケのテーマは「サヨナラ、N君」にした。前回が「N君をハゲます曲」だったので、二回にわたりN君がテーマの題材になった。この流れで行くと、次回のテーマはきっと「N君よ、永遠に!」になるに違いない。今回も六十名の方々に参加いただいた。加えてアロエルートの二人も参加してくれた。理事長の拙いギター演奏、参加者全員の自己紹介、アロエルートの生演奏、盛り沢山の内容であっという間に一次会が終わった。二次会のカラオケ大会では、「サヨナラ、N君」のテーマのもと、各人がN君に対する思いを曲に託して披露してくれた。改めて、彼の人となりを知る機会になった。
十年前、総勢五名から始まった診療所が、現在、パートも含めて総勢四十名弱の医療法人に変貌を遂げた。この十年間で何百人もの人々を選考してきた。公私にかかわらず関係・関連する何百人とも付き合ってきた。けれども、未だ人選びで苦心している。特に介護関係はそうである。N君と知り合えて、人付き合いの仕方・方法が少し変われたような気がしている。それはきっと、人選方法にも影響を与えるに違いないと感じている。「千里の馬は常にあれども、伯楽は常にあらず」という諺がある。伯楽になれるよう、僕の終わりなき人選びはまだまだ続いていく。