喧々諤々(けんけんがくがく)(NSX納車記(3))
評論家と称する人物はどうにも好きになれない。「そこまで言うんなら、自分でやってみ(なさい)。」と感じることがほとんどである。作り手、もしくは評論の対象者に愛情を持っているか否か、評論家を判断する一つのバロメーターと僕は考えている。けれども、ほとんどの場合、上から目線で明確な判断を示さず曖昧に感想を述べているに過ぎない。その最たるものが自動車評論家である。何でもかんでも欧州車との対比で語るだけ、「日本車もようやく欧州車レベルに近づいてきた。」で締めくくるだけである。我々が知りたいのは、あと一歩が何なのかである。
ナンバープレートの台座を交換した後、師匠の家から自宅まで、国道から高速道路を経由して自宅までの一般道、約80キロの一人旅になった。気分は、ピンクレディーのサウスポーの一節「胸の鼓動がどきどき 目先はくらくら 負けそう負けそう」である。他人の視線を感じる余裕なんて全く無い。兎に角事故だけは起すまいの一点張りで、前後左右の車との車間距離を保ちつつ車と向き合うだけで精一杯である。慣れた高速道に乗って、ようやくNSXという車の一端を垣間見ることが出来た。NSXでは四つの走行モード「QUIETモード(エコモード)」「SPORTモード」「SPORT+モード」「TRACKモード(サーキットモード)」が設定されており、センターコンソールのダイアルスイッチで簡単に選択できる。「SPORT+モード」にした途端、背後から野太いエンジン音が聞こえてきて、アクセルを踏み込むと心地良いエンジンの咆哮が伝わってきた。高速道を降りて一般道で「QUIETモード」に戻すと、今までのことが嘘のようにエンジン音は静まり、時には無音になる。そして、「この車ってFF車(前輪駆動)だったっけ?」、背後にエンジンがあるにも関わらずFF車のごとくクイクイと前に引っ張られていく感覚を覚えた。
NSXが納車され四週間になる。今年は、秋雨前線の影響が長期化し連日の雨である。根が貧乏な僕は雨中NSXを走らせられないでいる。したがって、200キロちょっとしか乗れていない。じっくりゆっくり乗れず、しかも、車に対してズブの素人の僕が厚顔無恥を承知でNSXを語らせてもらうなら、一言、不思議な車である。動と静、天使と悪魔、男と女、重厚と軽快、複雑と簡単、従順と頑固、日常と非日常、全く異なる側面をたった一台で表現している車、と感じている。これは、NSXがスーパーカーを標榜しつつ、三つのモーターを持ったハイブリッドカーだからであろう。また、内外装ともにアメリカの徹底的な合理主義が反映されている一方、そこここに和のテイストが散りばめられ東洋と西洋の融合が図られている。しかも、MADE IN USAとは言え基本的にホンダ車である、操作に苦慮することはほとんどなかった。
昨年八月に発表されて以降、自動車評論家の評価は決して芳しくなかった。ネットの掲示板はもっと悲惨な状態にあった。正直不安だったが、予約金を入れた以上断るわけにはいかない。試乗会で見て触れて乗って何とか思いとどまれた。しかし、心配が払拭されたわけではなかった。購入して前評判通りだったら即刻売り払おうと目論んでいた。オーナーとなった現在、その目論見は雲散霧消と化した。僕は、欧州のスーパーカーを所有したことはない。しかし、何台もの車に乗り続けていることは確かである。NSXはどのグループにも属さない独創的な車と考えている。奥が深く多様性があり寛容的なこの車と、今しばらく付き合っていきたいと感じている。