院長のコラム

変心?変身?

時の移り変わり同様、心の変化も全く予想できないものである。ヨウジヤマモトという孤高のドメスティックブランドを着続けて来た。今でこそどうにか一目を置かれるようになったが、以前の一般的評価は決して芳しいものではなかった。いつも怪訝そうに見られているのを肌で感じていた。極めつけは、長男と次男の中高一貫校の保護者会へ参加した時である。子供達から、「頼むから話しかけんといて。」と釘を刺された。我々夫婦はどうも周囲から浮いていたようで、誰の両親なのか学生の間でも少し話題になっていたそうだ。変わり者の子供に見られたくない、当時の子供達には同調圧力に耐えられなかったのだろう。しかも、その後ヨウジヤマモト社は民事再生法の適用申請を行っている。

このような状況の中、「たかが服、されど服」、服を着ることは自己表現であるという僕の信念はだんだんと先鋭化していった。資金力にものを言わせて膨大な広告宣伝費を投下し、マーケティングにより実際の価値とはかけ離れた価格設定を行うブランド戦略に嫌悪感を覚えた。たかだか綿やナイロン、ビニールの素材に、ブランドロゴを掲げるだけで数十万するバッグが信じられなかった。また、それを喜々として持つ人間を、あり得ないと断じていた。ファッションは総合的に判断するものであり、バランスが大事である。エレガントであること、それは即ち醸し出す雰囲気にオリジナリティがあること、どこかの雑誌で聞きかじった言葉である。ブランドロゴに身を委ねることは絶対にしまい、そう決意した。その象徴的なものがルイ・ヴィトンであった。ヨウジヤマモトと対極にあるルイ・ヴィトンは体制派であり、消費社会のアイコンとして忌避していた。コム・デ・ギャルソンとコラボーレーションしていたことも火に油を注いだ。

ところが数年前、以前にもこのコラム内で書いたように、偶然ジェフ・クーンズとのコラボ「マスターズコレクション」を購入して以来、不思議とルイ・ヴィトンと繋がっている。一見、ルイ・ヴィトンと分からない財布は酒席でのネタになっている。マスターズコレクションのボストンバッグは存在感もさることながら、小旅行に重宝している。ルイ・ヴィトンに対する敷居はどんどん下がって来ていたが、さすがにモノグラムバッグだけは抵抗があった。けれども今秋、とうとう敵の軍門に下ることになった。NIGO®と言えば、かつて裏原宿系ファッションブランドブームを牽引していた「A BATHING APE®」の創業者である。メンズの現アーティスティック・ディレクターであるヴァージル・アブローとの縁でNIGO®とのコラボーレーションが実現した。ちょうど外出時のトートバッグを探していたところに話題性もあった。モノグラムを取り入れた縦長のトートバッグを購入することにした。

僕は、かつての決意を反故にし、結果的に変心した。自分の信念や決意なんて蜉蝣のようなものである。こんな自虐的なことを公表することは本来憚られることである。恥ずかしいこと、情けないことも含めて等身大の自分を曝け出すことが、僕の成長日記でもあるこのコラムの意義である。男のアクセサリー同様、自分のスタイルにルイ・ヴィトンを取り入れ変身してみた。ルイ・ヴィトンはもちろん、ヨウジのショップスタッフからも案外好評である。僕は、消費社会におけるピエロに成り下がった。けれども、人生これまた楽し。変化を恐れるな!、僕の新たな教訓である。

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