院長のコラム

建築の力

2015.06.21

建築家との歩み

「理想の家は三軒目」という俗語がある。家は三回くらい建てないと満足できるものにならないそうだ。僕の場合、有難いことに自宅・仕事場・店舗に続き、とうとう四軒目となる施設が今夏竣工した。しかもすべてが建築家の千葉学氏によるものである。完璧な人生がないように、完璧な家などないことは分かっている。建築家による建物に暮らしてみて仕事をしてみて、正直多少の不便さはある。しかし、それを補って余る快適さ、居心地のよさがある。暮らして十一年、働いて八年になるが、日々新たな発見がある。どの建物にも満足している。

先日の祝賀会で、工務店下請け会社の代表から苦労話を語ってもらった。「東京の設計士はこだわりが強すぎる。」「現場から話を持って行っても、ちっとも聞いてくれない。」「変更変更で振り回されました。」「仕様・仕上げが難しい仕事ばかり持ってくる。」「図面を四百枚描きましたが、ほとんどがパーになりました。」「いつお呼びがかかってもいいように待機してましたが、待てども暮らせども連絡が来ず、来たと思ったら1ヶ月ちょっとで仕上げてくれって。」、皆が一様に悲鳴をあげていた。現場の困難は、素人でも想像できるくらい壮絶だったに違いない。けれども、最後には皆「本当に良い建物が出来た。」「さすがは千葉さん。」と感慨深げに話を締めくくった。

工務店・下請け会社の方々には申し訳ないが、現場の悪戦苦闘ぶりを直に聞かせていただき、施主冥利に尽きると素直に感じた。僕が惚れ込んだ建築家の仕事を、工務店・下請け会社・職人が一体一丸となって作り上げてくれたことに至福を感じた。「建築の力」という言葉がある。医療における「ホスピタリティ」という言葉同様、信念なき人間が使うと、安易でたちまち言葉の重みが失せる業界のキーワードである。自分の仕事に誇りを持って従事している現場の職人さんが、苦労話はするものの自分のした仕事はさておき、素晴らしい建築物であることを語る姿に「建築の力」を信じた。
ちなみに、誰もが一様に賞賛したのは「現場監督の力」であったことを付け加えておく。

ところで、建築家の千葉さんはどう思っているだろう。十五年前に、和歌山の田舎から突然「ブルータスを読みました。山本耀司さんが住むような家をRC(鉄筋コンクリート)で作ってください。」と飛び込んできた世間知らずの男のことを。こんなにも長い付き合いになると、千葉さんは当時想像したのだろうか。
もはや、僕の歩みは千葉さんの歩みでもある。出会った当時、僕は一勤務医であり、千葉さんは東大の助手でありパートナーと共同事務所を設立していた。その後、僕は独立開業する一方、経営者としての道を歩むことになった。千葉さんも自らの名を冠する事務所を設立し、大学人としての道を着実に歩んだ。その千葉さんも、今や東大の教授である。「千葉さんに唾つけたのは俺やで。」内心ほくそ笑んでいる。
まだまだ二人の関係は終わらない。なぜなら、僕はまだまだ歩み続けなければならないからだ。僕の成長の側にはいつも千葉建築があった。二人の関係が終焉の時を迎えるのは、すなわち僕が僕を止める時である。
少し感傷的になった。「建築の力」をいつまでも体感していたいと感じている今日此の頃である。

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