新型コロナワクチン狂騒(競争?)
新型コロナワクチンはクリニックに常備されている訳ではない。発注は週1回、2週後の予約状況を見込んでオーダーすることになっていた。65歳以上の高齢者への接種が一段落して、60から64歳の方に接種券が届き始めた頃から、接種券が届いた人だけではなく、届くことを見越した予約者の電話が相次いだ。潮目が変わったのは7月11日の日曜日からである。知人や友人から接種予約のLINEが数件、人数にして10人強の連絡が入った。休診のため、週明けに連絡することを返信した。順当に行けば、7月13日に発注し7月の最終週に接種予定の心づもりだった。同じ頃、ワクチンの供給量がままならなくなったため、大阪市では集団接種を取り止めにするニュースが流れていた。「府県や市町村によって異なるだろう。」と僕は楽観視していた。
ところが、12日当院するや否やスタッフが田辺市からのFAXを持って相談に来た。内容は、(1)ワクチンの供給調整をせざるをえない状況にある(2)したがって、8月はワクチンのオーダーが出来ないこと(3)ついては、7月16日までに8月の見込み発注をすること が書かれていた。程なくしてワクチン接種予約の電話が鳴り止まなくなった。コロナ禍前の生活に少しでも戻るためには、ワクチン接種が現時点での最大の有効法と考えている僕は、受診歴の有無に関わらず接種予約を受けるようスタッフに告げていた。「ワクチンの供給量が少なくなってきていますので、順調に行っても9月以降、供給量が予定以上に減れば予約をキャンセルさせてもらうこともありますが、いかがしますか?」、先週は同じ文言で8月中に打てるかどうか微妙ですと返答していた。打てるかどうかも不明、ましてやキャンセルになるかも分からない予約件数が200件に達していたことが判明したのは発注3日前である。「何でここまで?」、呆然とするほかなかった。1人2回、約400回分のワクチンを16日に申し込んだ。
ここでも思うのは医師会の在り方である。医師会長は、もはや狼爺さんと化している。「第◯波が来るぞ、来るぞ!」と叫ぶだけで、どうしたら狼の来襲を防げるのか、来た場合の対策法を専門家として何ら明らかにしなければ、対策を講じようとしない。当地でも、個別接種の対応に開業医間で温度差がある。「かかりつけ」という制限を設けているところが大半である。この「かかりつけ」の定義が曖昧で、風邪をひいたり体調が悪くなったら必ず行く診療所に電話をかけたら、「あなたは、かかりつけではありません。」と言われショックを受けたと言う苦情や不満の声を多数聞いている。そもそも、田辺市が公表している接種可能な医療機関に載せていない診療所もある。ようやく重い腰を上げたようだが、当地の医師会長も積極的に接種をしているようには映らない。「先ずは隗より始めよ」と言う言葉がある。トップが躊躇していれば会員は動かないに決まっている。ワクチンの保管・管理が煩雑、電話対応が面倒、日常業務に支障を来す等の理由は聞こえるが、僕の心には響かず詭弁にしか聞こえない。「あなた、それならなぜ開業したのですか?」と僕は問いたい。「公衆衛生の最前線を担うのは開業医の役目でしょ!医師であることの責務を放置するのですか?」と。前回のコラムでも書いたが、ワクチン接種を2度接種しても疲弊した飲食業に対して手を差し伸べようとしない経営者に寂しさと憤りを感じたように、ワクチン接種においても、医師としての自覚と人間としての本質が問われているような気がする。「可能な限り対応して行こう!」と心に誓っている。