正真正銘のフランクミュラー
ファッション談義の中で、「ヨウジヤマモトに合う時計は?」と話題になることがある。あまりにも無難だが、ステンレスベルトで黒文字盤のスポーツロレックスと答えている。実際に、スタッフで付けている人を何人か見たことがある。しかし、黒文字盤のスポーツロレックスは、ヨウジヤマモトに限らずどの服装、どんな状況でも幅広く対応できる。なので、その次の時計となると答えに窮するが、個人的にはフランクミュラーと考えている。ブランドの成り立ち、圧倒的な存在感、唯一無二の個性はヨウジヤマモトと共通するように感じている。
お世話になっている時計店の配慮で、フランクミュラーウォッチランドグループが京都・東山で開催したエキシビション「WPHH JAPON 2017 in KYOTO」に、昨年同様参加させていただけた。昨年は夫婦二人だったが、今回は僕の弟も加わり三人での参加となった。十月十一日水曜日、午前の診療を終えるや否や田辺駅に集合して京都へ向かった。昨年も参加しているので大体の流れは理解していた。ウェルカムドリンクでホッと一息した後、展示会場を一通り見て回り、気になった時計を実際に手にとって見せてもらい担当者と時計談義に花を咲かせ、その後は美味しい食事に舌鼓、これが昨年の順序だった。しかし、今回は、会場に到着するや何だか慌ただしく落ち着かない。どうも時計店の担当者が、フランクミュラー日本輸入総代理店であるワールド通商の担当者に、フランクミュラー本人と会えるように交渉していたようだ。こちらが強く希望した訳ではないが、時計店担当者の情熱がワールド通商の担当者を突き動かしているようだった。
世界のフランクミュラーである。日本滞在中は、取材や打ち合わせ等で分単位のスケジュールが組まれているに違いない。去年も姿を見かけたが、あっという間に会場を去って行った。「◯◯君、無理せんでいいで。そもそもフランクと会ってもフランクに話せんし、何を話していいか分からんし。」、ワールド通商の担当者がフランクさんの動向を逐一伺いながら待機場所を何度も変えるので、じっくり展示物を見られず会場の雰囲気も堪能できないでいた。狐につままれたような気分ではあったが、いよいよフランクさんが打ち合わせをしている隣の部屋へ通された。
その時が来た。フランクミュラー本人の登場である。挨拶・握手をした後、記念撮影をして終了と思いきや「まあ座りなさい。」と促された。弟が五十歳を迎えるにあたって購入を検討していた商品を、フランクミュラー本人が見繕ってくれるというのだ。それを見て首をかしげながら「なぜ、これを選んだのですか?」通訳を介して何度も聞いてくる。それは、フランクミュラー創業二十五周年記念に復刻されたアニバーサリーモデルだったのだ。その作品に対する弟の強い思いを、通訳を介して伝え聞きながらも不思議そうに怪訝そうにじっとその作品群を眺めていた。「どれも良いものです。いい選択です。」、結局のところ本人の最終判断は仰ぐことはできなかった。五分程度の面会のほとんどが弟の時計談義に内容が割かれ、我々夫婦は「面白い服を着ているね。」で終わってしまった。とは言え、世界のフランクミュラーと濃密な時間を共有できたことに違いない。弟に感謝するばかりである。
今夏、知人の死を機に人生観が変わったように思う。とにかく生きる、今を生きる、人生を楽しむ、「アリとキリギリス」の童話のキリギリス的な気分のようだが、あと何年健康体で生きられるのか分からない年齢に達したことには違いない。「生きていたら何か良いことがあるさ。」、今回も至福の時間を過ごすことが出来た。