残念、無念、断念!
「半分、青い。」以降NHK朝ドラを欠かさず観ている。「朝ドラは主婦の家事前の景気づけ行事、お時間のある人は羨ましいね!」、かつて妻が朝ドラを観ている側で僕は見下していた。しかし、「半分、青い。」にはまって以来、状況は一変した。予約録画したものを帰宅後、夕食を摂りながら観るようになった。仕事の疲労に晩酌がちょうど心地いいところに15分間のドラマ。主人公の波乱万丈の人生に一喜一憂、時には大笑いし時には大粒の涙が溢れてくることも。一日の終りの精神的無防備状態に朝ドラはうってつけだ。「明日はどうなるのだろう?」期待に胸が膨らみ仕事の励みにもなった。人生にリズムが出来、彩りが加わったように感じている。
「半分、青い。」以降のドラマは、どれも甲乙つけ難く楽しめた。敢えて苦言を呈するなら(あくまでも個人的見解)、ヒロイン周囲の誰もが良い人過ぎてある種偽善的だった「なつぞら」、ヒロインの性格が暗く物語の展開が単調だった「おかえりモネ」は数回飛ばしたこともあった。逆に強く印象に残っているものを3つ上げるなら、「エール」「カムカムエヴリバディ」、そして「半分、青い。」である。賛否両論のある「半分、青い。」だが、僕を朝ドラに誘ってくれた金字塔的ドラマである。このドラマがなければ、朝ドラを観なかったと言っても過言でない。キャラの立つ登場人物の数々、心にぐさっと来る数々の金言、特に豊川悦司演じる秋風羽織の存在感は圧倒的だった。今振り返れば、錚々たる面子、今や第一線で活躍している若手俳優の登竜門的ドラマでもあった。
傑作と評されることの多い「カムカムエヴリバディ」を引き継いだ現在放送中の「ちむどんどん」。沖縄を主題材・舞台にした本土復帰50周年の節目に満を持して制作された今作。しかし、当初から「まさかやー」「あきさみよー」の展開。「これはあくまでも前フリで、料理人編に移行すれば事態もきっと変わるはず。」と言い聞かせ見続けた。朝ドラに大切なのは、主人公の苦悩と挫折による成長と泣き笑いの物語である。けれども、今作においてヒロインは全く変わらない、変わろうとしない。能天気で世間知らず、ヒロインだけならまだしも家族までも同様。薄っぺらい登場人物に心を素通りするだけのセリフ、時に「吉本新喜劇かよ!」と思わせる演出、場をしらけさせる仰々しい音楽、ご都合主義的なドラマ展開。そう思っていたのは自分だけかと思いきや妻も同意見で、そのうちネットには、「ちむどんどんしない」や「ちむどんどん反省会」なる言葉も散見されるようになった。ドラマを観ていて嫌悪感や不快感を覚えたのは初めてである。民放ドラマなら視聴を止めればいいだけの話だが、NHK朝ドラはそうはいかない。半年間週末を除いて毎日放送される公共放送が制作した連続テレビ小説である。染み付いた習慣を断ち切るには相当な勇気がいる。ツッコミを入れながらも生活リズムが変わるのを避けるべく渋々観ていた。ある日、観ていて呆れを通り越して突然憤りが沸いた。「もう観るまい!」決心できた。
「半分、青い。」から始まって約4年半、とうとう朝ドラ断捨離することが出来た。面白くないものは面白くない、朝ドラだからといって駄作なら早々に撤退すべきだ。朝ドラを欠かさず観なくても、日々のリズムが少し変わるだけで世界は何も変わらない。むしろ朝ドラなら、現在夕刻にNHKで再放送されている松嶋菜々子主演の「ひまわり」のほうが断然面白い。主演の初々しい演技はともかく、当時の背景や世俗を懐かしむとともに、紆余曲折だが真っ直ぐなヒロインの生き方が「これぞ朝ドラ!」である。意味は少し異なるが、これも「捨てる神あれば拾う神あり」か。