笹田靖人さんに会いに行く
シンデレラ・ボーイ
2013-14秋冬ヨウジヤマモトのメンズコレクションを初めてネットで見た時、度肝を抜かれた。近年稀にないほどカラフルで、黒基調の服にも髑髏や蛇や花が大きくプリントされていた。圧巻は終了間際で、一度見たら忘れられない独特の絵柄がふんだんにあしらわれたレザーのセットアップシリーズだった。「これ絶対に欲しい!」瞬間的に感じた。
コレクションが終了してしばらく経って店舗スタッフに聞いたところ、後半の商品は現代作家の笹田靖人氏がレザーに直接描いたものとのこと。価格を聞いて腰を抜かしそうになった。上下で、ミドルセグメントのプレミアムブランド車を購入出来る価格なのだ。よくぞこんな値付けをしたものだと思ったが、笹田氏本人の絵画の取引価格を考慮すると至極妥当な値段だそうだ。こうなると単なる服ではなくてアート作品である。
バブルの頃日本人は海外ブランドを買い漁り、これに飽きたらず海外の土地はもちろん有名美術作品も買い漁った。これと同じことが彼の国で現在起こっていて、パリコレ後の展示会でこの国の人から数点受注が入ったそうだ。聞いている範囲では、日本人からのオーダーは現時点ではないそうだ。
神戸大丸で「ヨウジヤマモトx笹田靖人 FASHION IS ALWAYS ART」フェアーが、10月11日から26日まで開催される情報を得た。初日には作家本人がペイントライブをするとのことだったので、連休初日に急遽神戸に車を走らせた。余裕をもって早い目に出発したが想像していたよりも混雑はなく、神戸まで二時間かからずイベント開始一時間前に到着した。
既に作家は来店しイベントの準備に余念がなさそうだった。僕は僕で久しぶりの来店だったので新商品を手にとって眺めていた。すると、まさかのまさか、何と作家の方から声をかけてくれた。まだ若く色白で端正な顔立ちをした作家は、耀司さんとの出会いやパリコレでの経験や自分の作品に対して熱く饒舌に語ってくれた。
以前上京した際、たまたまサンプル品を試着させてもらえた。レクサス一台分の重みは感じなかったが、革質の良さは十二分に理解出来た。ペイントがボロボロ剥がれ落ちていたのが気になったので尋ねたところ、コレクション時は不眠不休で絵を描き放しだったこと、米国の有名ミュージシャンを含めて何点かオーダーをもらって作成しているが処置を施せばサンプルのようにはならないですよ、との忌憚のない返事だった。それにしても、これは美術作品なのか装飾をまとった衣類なのか、今でも僕には分からない。
トンボ返りしなければならなかったので、ペイントライブ途中で中座しなければならなかった。神戸フェアー限定のスカーフにブーツを購入して帰宅の途に着いた。
画商に見いだされるまでひたすら絵を描き続け(ほとんどの作家は見出されないまま終わる)、作家としてデビューしても個展を開催し続け(これがさらに至難)、号単価を一歩一歩着実に積み上げていく地道な仕事、それが僕の美術作家のイメージである。しかも、生前に評価されればまだ救われるが、亡くなってから価値評価が上がる場合もある。最近、日曜の朝、Eテレの番組「日曜美術館」を楽しみにしている。この番組を見れば見るほど、美術の世界は難しいと思う。
万が一歳末ジャンボ宝くじが当たったら、この商品を購入することにしよう。二十年後にレクサスがロールスロイスに変わるのか、はたまた二十年落ちの査定ゼロ車になるのか、美術の世界はある種博打の世界だ、そんな止めどもないことを車中考えた。