素敵、大好き。(着物界の重鎮たちと)
今年の十月は、毎週末泊りがけの用事が近年稀になくあった。日曜日に書くことの多い院長コラムが一ヶ月滞ってしまった。自身分かっていた。けれども、「期待している人は、あまりおらんやろ。」、院長コラムを更新しようがしまいが、特段来院患者数に変わりはない。自分の責任ではあるが義務ではない。Googleでの謂れのない評価やスタッフ間の問題等で半ば自暴自棄になっていたこともあり、コラム更新を二の次にしていた。ところが、何人かから「コラムが更新されないので体調の方心配していました。」と声をかけられた。「楽しみにしてくれている人もいるんや。」、意外に思うとともに案外嬉しくなった。またこうして、備忘録として素敵な出来事をここに記したいと思う。
十月十三日土曜日、日頃からお世話になっている着物店の会長および新社長就任記念パーティーが、ホテルオークラ神戸で開催された。昭和二十一年にこの地で創業された呉服店ではあるが、昭和四十五年には神戸にも進出している。「地方から情報発信を」叫ばれる昨今だが、五十年も前に先取りしている稀有な店である。前社長(現会長)は、「美しいキモノ」で有名なハースト婦人画報社から「神戸キモノ物語」を上梓したきもの界のまさにレジェンドである。二百名弱のパーティーに当地からも三十数名が参加したようで、日帰りのバスツアーが組まれた。以前、バス旅行で調子に乗って飲んで粗相をしたこのとのある僕は、迷惑をかけないよう泊まることにした。
就任披露会は、「お金、いくらかかっているんやろ。」とにかく盛大なものだった。司会進行は何と、毎日放送の河田直也アナウンサーが務めた。祝辞、乾杯の挨拶、どちらがどうか今となっては忘れたが、かたや市原亀之助商店の社長、かたや誉田屋源兵衛の山口源兵衛さんがされた。何れも、着物のことを少し噛じればたどり着く着物界の重鎮である。料理も、「さすがホテルオークラ、間違いない。」としか言いようがないほどどれもこれも美味しかった。次々と注がれるワインがみるみるうちに減っていった。今回のパーティーのメインイベントは、「西郷どん」の原作者である林真理子さんのトークショーである。ドラマが佳境の現在、日本で最も忙しい人と言っても過言ではないだろう(案の定、会の終了後、妻と二人でロビーをうろちょろしていたら、先程まで素敵な和装姿だった林さんが洋装に着替えられていて、和装姿の我々夫婦が会釈したところ、「これから東京に帰らなければならないんです。」と声がけしてくれた)。呉服店の顧客でもあるとはいえ、「講演料、どれくらいかかったのだろう?」と邪推した人間は僕だけではないだろう。午後四時から始まった会は、あっという間に三時間が過ぎた。前社長がよく使う言葉「素敵」、素敵を具現化した素晴らしい就任披露式であった。
帯を二本、浴衣を二着持っている僕としては、山口源兵衛さんとの出会いに興奮した。山口源兵衛さんには、僕が山本耀司さんに感じるもの、唯一無二の存在感、破天荒な生き方、独特の世界観、そして普遍性、表現に東洋と西洋の違いはあるけれども、一言で言えば同じ匂い、「侍」を感じている。確かに酔っていたが、酔った勢いと酔ったふりに任せて呉服店店長に「源兵衛さんと一緒に写真を撮ってもらいたいんやけど。」と無理を承知で頼んでみた。何と、すんなり快諾いただけた。しかも、それを見ていた市原亀之助商店の社長も写真に加わってくださり、まさに記念写真を撮ることが出来た。しない後悔よりした後悔、行動を起こさなければ何も起こらない、何も始まらない。招待されたパーティーで大人げないことは理解していたが、また一つ忘れられない思い出が出来た。あと何度、こんな素敵な出会いがあるのだろう、決して長いとは言えない残りの人生に思いを馳せる。