院長のコラム

群馬大学腹腔鏡下肝切除術事故

2015.03.15

わきまえなければならないこと

群馬大学医学部附属病院で、40代の男性医師が院内の審査を経ずに腹腔(ふくくう)鏡を使った高難度の肝臓切除手術を重ね、術後100日以内に患者8人が死亡した問題で、同病院は過失を認める最終報告を行った。その他に、開腹による肝切除でも10人の死亡例が報告されており現在調査中とのことである。
医療に危険はつきものである。同じ医療人として傍観者を気取って上から目線で弾劾するつもりは微塵もないが、なぜこんなにたくさんの死亡例が積み重ねていかれたのだろう、率直に疑問に思う。教授を頂点とする徒弟社会である。上司からの指導・注意があったに違いない。手術はチーム医療である。同僚や後輩、医師以外の医療従事者からの進言・意見はあったことは想像に難くない。なのに、なぜ、40代医師の暴走を止められなかったのだろう。

医療に従事したことがある人なら理解出来ると思うが、完璧な医療などない。絶対にミスの伴わない医療行為など不可能である。医療の現場には、不確定で不安定な要素が満ち溢れている。いつも不測の事態と表裏一体で物事が進行している。それが故に、より一層高みを目指して技術を研鑽し、知識を積み重ねていく努力を怠らないようにしている。それが故に、処置前に、処置することのメリットとデメリット、想定される合併症について説明を行わなければならない。万が一合併症が起こったとしても、二重、三重の対策を講じて臨まなければならない。
群馬大学付属病院は、高度医療を提供する特定機能病院である。高度医療を提供するということは即ち提供する医療に見合った危機管理対策をとっているもの、と考えるのが妥当であろう。しかし、なぜ、40代医師の暴走を拾えなかったのだろう。

当院は内視鏡検査が主体のクリニックである。内視鏡検査は、数ある検査の中でも高度かつ危険な検査の一つである。診察室から二階の内視鏡室へ移動する際、いつも不安な気持ちを抱えて向かう。大過なく検査が終了し、「安心してください。」と説明し笑顔で診察室を出て行く患者さんを見届けてようやく安堵する。内視鏡検査を続けて行けるのは、患者さんの笑顔と「楽に検査を受けられてよかった。」の喜びの声だけである。
当院は検査だけではなく処置内視鏡も行っている。中でも、内視鏡的胃粘膜下層剥離術(ESD)は高度な技術と経験を要する内視鏡手術である。特殊な内視鏡用処置具を用いて、粘膜内癌を切開し削ぎ落とす治療である。出血が止まらなかったり、胃に穴が開いたりする大変危険な処置である。そんな高度な医療を診療所レベルで行っていかがなものか、異論はあるかもしれない。その治療の黎明期から治療に従事してきた経験と技術を有し、何よりも患者さんから「(癌を)見つけた先生に治療もして欲しい。」と言われれば腹をくくるしかない。僕は院長であり、内視鏡医であり、危機管理室室長であり、経営者であり最高責任者である。群馬大学の40代医師のようになってはいけない。したがって、いつも三点のことに留意して内視鏡手術に望んでいる。
・ 第三者からの評価に耐えられる治療を行う
・ 必ず一時間以内で手術を終える
・ 自分の経験を越えた無理な治療を行わない
以上を常に肝に銘じて治療にあたっている。年間15例前後の治療を行っているが、今のところ大事に至っていない。

群馬大学腹腔鏡下肝切除術事故は、日常診療の忙しさで漠然としていた危機意識を僕の脳裏に鮮明に焼き付けた。医療行為は、殺人と相即不離であることを。
亡くなられた方のご冥福を祈るとともに、病院・医師を信頼して任せた遺族が十分納得できるような説明が、病院長だけではなく執刀した医師本人および科長からなされることを願ってやまない。

 

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