親馬鹿なバカ親とその子(2)
娘は外国が好きなのか、旅行が好きなのか、バッグ一つでふらりと旅に出る。家に帰ってくる時も突然その調子なので、汚いスニーカーにヨレヨレのバッグ、服も旅行先で買ったノーブランドを無造作に組み合わせただけで統一感がなく、両親が推奨する「おしゃれ」とは真逆の格好。「この前買ってあげた服どうしたんな?」と尋ねてもどこ吹く風。とにかく自分の興味以外は全く無頓着。
娘は外国が好きなのか、勉強が好きなのか、学内活動でも積極的に交換留学や海外短期留学に応募。極めつけは四年生時の「スタンフォードアメリカ研修」。Volunteers in ASIA(VIA)という米国シリコンバレーに拠点を置く非営利団体が主催するプログラムに応募し、大学や学年の枠を越えて医学生と医療系学生が集うそのプログラムに参加することが出来た。留学で多大なる影響を受けたようで、留学中に出会った医学生達や医大同期と「日本でも医師が自分らしく仕事ができるように」と「Project SAM(Self-esteem(自尊心)And Mindfulness(自己満足感)」なる団体を立ち上げた。折しも神戸市の甲南医療センターの専攻医(当時二十六歳)が過労自殺したニュースを知り、労働に対する世代間の意識のずれを埋めるべく、昨年(2024年)三月九日にProject SAM主導のもと「医師の働き方やメンタルについて議論するシンポジウム」を大阪市内で開催した。医学生や医師、弁護士ら七十人近くが集まり、医師の長時間労働について議論を交わした。我々家族はオブザーバーとして参加させてもらった。積極的・能動的・効率的にシンポを運営していく娘に感心した。会終了後、慰労の言葉を投げつつ、「このような会には左翼的な人たちも介入してくるから気をつけるように」と付け加えておいた。
その後もProject SAMの活動、大学の臨床実習、卒業試験、続く国家試験の勉強等忙しくしていた最中、「雑誌社からインタビューされることになった」と妻に連絡が入った。その雑誌とは、ビジネス雑誌で有名なプレジデント社の家庭教育誌「プレジデントFamily」のムック本「医学部進学大百科2025」。「あなたがなんで?」、家族を含めた万人が思うに違いない。同誌の2024年度版の表紙を飾ったProject SAMの仲間から推薦され、特集「教えて!医学生ライフ 輝き続ける5人の24時間」の一人に選ばれたそう。「五人の中の一人が表紙を飾るみたい。選ばれたらどうしよう?」と呑気なことを言う。「錚々たる大学の精鋭ばかりの中で美雪が選ばれる訳ないやん」と夫婦で彼女の夢物語を笑った。ところが、昨年十月三十一日発売された表紙を見て驚愕。ありえないほど極端なツーブロックヘアー、アディダスのスニーカーにナイキのソックス。違和感ありありの長女が表紙を飾っている。「長女が表紙で大丈夫か?」と思う一方、誇らしいことも確か。思わずamazonで二十冊をポチッとクリックし関係各位に押し渡した。かく言う自分も、NHK午後九時のトップニュースで紀州のドンファンの知人として顔をさらしたことはあるものの、それとは段違い平行棒。
国家試験に無事合格したので、親馬鹿なバカ親の話を聞いてもらえることになった。「子供三人も医者!」と驚かれること多々だが、我が家は教育パパ・ママとは程遠く本人の意志を尊重したまで。任せたがために、そこまでの道程がいかに大変だったか今となっては良い思い出。医療法人「伸阿会」は順風満帆と思われるかもしれない。長男は研修医を辞めてAIエンジニアに転身、次男の興味は医療よりも専らゴルフと筋トレ、長女は国試前から身内に大爆笑される不測の事態へ。社会人になっても、ハラハラドキドキさせてくれる子供達である。「蛙の子は蛙」と諦めている。
https://www.yomiuri.co.jp/local/osaka/news/20240309-OYTNT50188/より抜粋