2020年夏
今年の近畿の梅雨明けは七月三十一日、平年より十日も遅くなった。例年なら二十日前後に梅雨が明け、二十四日・五日の田辺祭を迎え夏本番ということになる。けれども、今夏は新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、田辺祭の開催中止が早々に決定された。梅雨明け後は酷暑が続いているが、本当に夏は来たのだろうか。風物詩を感じ取れていないため、我々の世代的には、夏うたのないTUBE、金鳥(蚊取り線香)のない夏のようなものだ。不思議な感覚だ。
この酷暑の中、通学している小中高生の姿を通勤で見る。COVID-19により休校期間が長引いた分、夏休みを短縮せざるを得ないとのこと。学生と夏休みと言えば、宿題と日焼けである。夏休みをどう過ごしたか、学生にとっては日焼け具合が全てだ。けれども、その学生たちは、真夏にも関わらずプール授業が中止となり、泳ぎたくても扇ヶ浜海水浴場も閉鎖されている。お盆の帰省もままならない。やんちゃ坊主にとっては、自己表現の場が失われた。
僕自身、例年なら梅雨明けと同時に浴衣を出してもらって、下駄を履いてカランコロンさせながら颯爽と飲みに行っていた。今年はどうにもそんな気分になれない。当地での感染者は散発的だが、自身のマインドが自粛モードだし周囲の目も何かと気になる。さすがの僕も、浴衣を着て粋を気取るにはかなりの勇気がいる。おそらく今年、浴衣は畳紙に眠ったままになるだろう。2020年夏、景色は随分変わった。蝉の声も何だか寂しく聞こえるのは気のせいか。
録画していた番組がHDDに一杯になってきた。容量を増やすために録り溜めていた番組を見ることにした。二年前の番組を見ていて驚いた。競泳女子の池江璃花子さんを焦点にした東京2020のCMだった。その後、池江璃花子さんが白血病を発症するなんて誰が予想できただろうか。そして今年、COVID-19の世界的流行により東京2020が延期されることになった。悪夢のような事態が現実になった。二年前誰もが、今夏オリンピックが開催され、池江さんの活躍を信じていた。想定外の事態が起こった。
予想外の出来事が起こったのは我が国だけではない。世界が未曾有の出来事に右往左往していたが、情報を積み重ねる過程でようやく冷静になりつつある。緊急事態宣言時には一日の感染者数が七百人でパニックに陥っていたが、今や二倍の千五百人でも街には人がそこそこ出ている。いつもの夏と異なるのは、マスク姿の人が圧倒的に多い。感染者の約七割は転機良好、男性・高齢者・喫煙者や併存疾患のある例は重症化しやすいという報告もされており、三密を回避して感染防止対策に努めればさほど恐れることはないことが浸透しつつある。三月に書いたコラム「警戒しろ、怯えるな」で指摘した通りである。
今年は戦後七十五年になる。戦後生まれの人が大半を占める我が国で、2020年夏は、老若男女誰もが経験したことのない夏になった。夏休みに象徴される夏、祭りや花火に盆踊り、海に川そしてプール、そんな夏はもう二度と来ないのだろうか。今を生きる我々にとっては、先の見えない未来の前で立ちすくむだけだが、二十五年後の戦後百年には、2020年夏は変革(令和維新)の始まりとしてきっと顧みられるに違いない。