院長のコラム

17歳の胃癌(2)

2012.05.6

迷医の懺悔

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 自分と同年代に「堀江しのぶ」というタレントがいた。確か僕が医大5年生の頃、スキルス性胃癌のため23歳の若さで亡くなられた。そのニュースを聞いた時、同世代だけに強い衝撃を受けたことを鮮明に覚えている。当時、ピロリ菌の存在は分かっていたようだが、ピロリ菌と潰瘍・胃癌の因果関係は明らかではなかった。当時、ストレスによる攻撃因子(胃酸)の増強が潰瘍の原因と習ったし、ストレスと胃癌の関連をまことしやかに言う先生もいた。だから、堀江さんのニュースを聞いた時、若いとは言えストレスが極度にかかったのだ、自分も気をつけなければと思った。今から考えると、おそらくピロリ菌感染症があり、その背景胃粘膜は鳥肌胃炎だった可能性が高い。

17歳の胃癌患者さんの治療選択には苦慮した。当時、画期的な内視鏡治療が開発され普及してきた時期ではあったが、まだまだ未分化型癌に対しての内視鏡治療にはコンセンサスがなかった。5mm程度の癌に対しての外科的手術は過剰治療に思えたし、場所が場所だけに手術をすれば胃の3分の2を切除することになる。まだまだ成長期にある高校生、しかも女子高生の腹部に大きな手術痕を残していいものだろうか。
一方、未分化型癌は、その性質上パラパラと胃内を飛び散るように進展して行くので、内視鏡的に癌が存在すると思われる部位を切除しても、完全に治療出来たかどうかの保証はない。

以上のメリット、デメリットを両親に充分に伝えて、もちろん自分の家族であればという私見も交えて説明し、家族は内視鏡治療を選択した。
当初、夏休みを利用して1週間程度の入院を予定していたが、内視鏡治療中の止血処置に難渋し、病変部位は早い時間に切除できたものの、その後の止血処置に時間を要し貧血の合併症を招いた。このため、予定オーバーの2週間の入院となった。術後の病理組織の結果は、「癌の組織の大きさは3mmで限局しており、リンパ節転移の可能性はないに等しい」というものだった。
退院後も取り残しがないか瀕回に内視鏡検査をするとともに、ピロリ菌の除菌治療も行った。まさに鳥肌が立ったような胃の出口の変化は、半年もするとみずみずしい一見正常粘膜になった。5年間厳重に経過を追って行ったが、取り残し無く再発することも無く経過した。彼女は今二十四歳、結婚し一児の母である。

今回の一連コラムを読んだ方の中には、僕のことを名医のように思う方がいるかもしれないが、自身は迷医を自覚している。自分の未熟な診断能力のため、自分の不遜な態度・傲慢な発言のため、不愉快な思いをさせた人は決して少なくないと自覚している。実際、訴訟の対象になったこともある。
オフコースの「眠れぬ夜」ではないが、眠れない夜や、夜中にふと目が覚めて外でしとしと雨が降っている時、なぜか、自分が傷つけた人のことやその家族のことをふと思い出すことがある。なぜ、あの時あんな態度をとったのだろう、なぜ、あの時患者さんの心を少しでも汲んであげることができなかったのだろう、悶々と自問自答を繰り返す。
思いやりのあるクリニックを掲げるのは、自分自身を反面教師としたからである。僕が傷つけた人達の心を元に戻すことは出来ない。謝っても許されないことを承知している。しかし、その方達のことを忘却の彼方においやって、嬉々として医療をしている訳ではなく、罪の意識を背負って生きていることをその方達に少しでも理解していただければ、そう思ってこの場を借りて懺悔させていただく。

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