5212A-001 時計はもう飽きたはずなのに(後編)
10月上旬、以前パテックフィリップを購入した正規代理店から携帯電話に着信履歴が入っていた。「予定納期にはまだ2年以上もあるけれど、今頃一体何だろう?」、期待半分不安半分に時計店に電話を折り返した。すると、「そろそろ5212が納品出来そうとの連絡が(本部から)入ったのですが、いかがしましょうか?」との報告。いかがするもしないも、予約している以上拒否なんてあり得ない。とは言え、あまりに唐突な連絡に嬉しさ反面、納品なんて全く想定していなかったため、お金の工面がままならなかった。カッコつけても仕方ない、単刀直入に「金利の安い分割ローンってあります?」と相談してみた。すると、店長さんは大変親身に相談に乗ってくれ、提案してくれた信販会社の金利は納得いくもので購入に踏み切ることが出来た。
いくつかのやり取りを電話で行った後、しばらくぶりにホームページを見てみた。「えっ!こんな価格だったっけ?なんや、もうお手頃感ないやん。」3年前に比べて定価が2割もアップしていた。さらにもっとびっくりする事態が。納品予定連絡が入ってから1週間後、「すみません、突如価格改定があり、申し訳ありませんが入荷直前ではありますが6%ほど定価が上がります。どうされますでしょうか?」と店長から念押しの連絡が入った。たかが6%と言っても額にして30万円なり、まさに狐につままれた気分である。冗談半分にキャンセルしたらどうなるか質問してみた。自店舗の次の申込者に商品が渡るのではなく、パテック・フィリップジャパンに一旦戻して別店舗の待機者に回るとのこと。今回、想定外に早く僕に回ってきたのは、同様の事情があったからだろうか。タイミングが良いのか悪いのか何とも言えないが、二次市場で平均すると定価の1.5倍で売られていることを考えれば安いものである。もちろん、引き取ることにした。
店舗に到着してから2週間以内の引き取りが原則らしく、10月30日に店舗を訪れた。実機をひと目見た印象をたった一言で言うなら、エレガントである。アバンギャルドな黒服には、服に負けないデカくて分厚いこれ見よがしの時計を合わせていた。しかし、黒の袖から覗くケース計40mmのクラシック調の時計は予想外にしっくりした。これがもし40代だったら、きっとバランスが悪かったに違いない。年齢と経験、そして社会人としての積み重ねが、革ベルト時計と絶妙なハーモニーを醸し出し始めた。信販会社の審査を無事クリアーし、いよいよ正式な納品手続きに入った。前回と異なったのは、保証書が2年間店舗で管理されるとのこと。保証書のない中古品を二次マーケットで買うには相当な覚悟がいるから、きっと転売防止対策なのだろう。覚書を交わした後、「転売なんかしませんから、何なら一生保管してもらってもいいですよ。」の僕の言葉に店長は苦笑していた。
納品から2週間、誤差確認のため連日装着してみた。自分にとって40mmという大きさは程よく、重さを感じさせない塩梅さが良かった。抵抗のあった久しぶりの革ベルトも案外と馴染みが良かった。時折袖からのぞくオリジナリティ溢れる文字盤にうっとりし、「あぁ、購入できてよかった。」を実感する。このコラムは我が人生記でもある。経営者として成功したかどうか、いまだに分からない。けれども、欲しいと思える車の上限価格が徐々に上がっていき、眺めていただけの雑誌の中の商品にいつしか手が届くようになった。5212A-001を眺めながら、自分が歩んできた道に万感の思いを抱く。しかし、これで終わらないのが時計沼である。次(の商品)は一体いつ届くのだろうか?