新型コロナワクチン狂騒(2)〜聞いてないよぉ〜
新型コロナ感染症の波が来る度、医療逼迫・医療崩壊が叫ばれた。しかし、我々開業医の大半は、COVID-19の前に呆然と立ちすくむほかなかった。最前線で死に物狂いに働く同業者を尻目に、「何か出来ないのか?」ともがくだけであった。診療所によってはクラスターが発生し、感染症による無慈悲な鉄槌に万事休す状態であった。だからこそ、不要不急とされた開業医が今こそ立つ時である。集団免疫効果を高めるためには早期のワクチン接種が重要、と僕は考える。可能な限り接種者を積み上げて行くつもりである。
「僕の心意気が届いたのかな?」、ある時期を境に予約や問い合わせの電話が頻繁に鳴るようになった。「かかりつけ」以外にも接種者の間口を広げていたためと分析していたが、「それにしても多いなぁ。」が率直な感想だった。「電話対応には極力失礼のないよう。」、「現時点で判明していることを伝えて電話を切るように。」受付スタッフには口酸っぱく言い続けた。ワクチン接種したいけれども、集団も個別も予約を受け付けられない皆が困っている厳しい状況である。真摯に対応してきたつもりである。「知らぬが仏」、「世間知らずの高枕」状態だったことを後に知ることになった。
とある日、接種希望者の問診表を見ていたら、かかりつけ医有りにチェックが入っている。「◯◯医院にかかっているんですよね。そこでは接種してくれないんですか?」と問うたところ、「問い合わせたけども、打ってくれないんですよ。それで田辺市に問い合わせたら、ここから選んでくださいと言われて。」と接種可能医療機関一覧を見せられた。何と、民間2病院と2クリニックに、がっつり緑の蛍光マーカーが引かれていた。もちろん、一つが当院である。ダチョウ倶楽部ではないが、思わず「聞いてないよォ!」と心が叫んだ。ここに至って、ようやく腑に落ちた。接種希望者と受け入れ体制のとてつもないアンバランス、ワクチン供給量の調整、行政による誘導、クリニックの電話が鳴り止まないはずである。その直後、さらに驚愕の事実を知ることになった。コールセンターでも同様の案内をしていたようである。直様、担当部署に電話をした。①うちは聞いていないけれども、その他のマーカーを引いた医療機関には承諾を得ているのですか? ②公的な行政が特定の民間医療機関に誘導していいのですか、かつてないほど紳士的に問い詰めた。返答は何れも、否であった。地域医療を担うものとして当然のこととしてワクチン接種に取り組んできたつもりだ。しかし、ある意味、善意を踏みにじられたようで釈然としなかった。
7月末時点で、当院で1回目の接種を終えた方は360名弱、2回目まで終えた方は160名弱にのぼる。7月中旬までに予約を受けた約200名の希望者をさばくべく、7月からは休診日の水曜日をワクチン接種日に当てている。診療と内視鏡検査を終えてから、連日12〜18名のワクチン接種。正直なところ、しんどい。「治療の最前線で頑張っている同業者に比べたらまだまだ頑張れる。」、そうやって自分を鼓舞している。もう少しの我慢である。