SAKANAQUARIUM 2024 “turn”(後編)
二時間半強のライブの感想を一言で言うなら「とにかく凄い!」。少し語彙力を上げて「筆舌に尽くしがたい。」だ。観客、演奏、音響、照明、空間のアツ、どれを取っても圧力がとんでもない。それは熱さであり、暑さであり、厚さだ。大阪城ホール全体から醸成される高揚感は今までに経験したことがなく、俗に言う半端ない、ヤバいだ。特に音圧は圧倒的で、前後、左右、上下、直接間接的、もっと言えば空間全体から渦を巻くように響いてきた。これは目を閉じてみて分かったこと。まるで高性能ヘッドフォンをつけているかのように耳元で迫力あるサウンドが鳴っている。これに関しては、山口さん自身がコンサート最終盤に実際にネタバラシをしてくれた。通常とは異なるオリジナル音響システム「speaker+」を導入しているからとのこと。「音に拘るからいつも赤字になるのでコンサートグッズを買ってね。」とぼやいていたのを付け加えておく。
音楽のジャンルは良く分からない。サカナクションは、テクノポップなのかロックなのか、はたまたダンスミュージックなのか。小刻みなテンポのシンセサイザー音が大音響とともにうねるように繰り返され、眼前には眩いばかりのレーザー光線が複雑に交差する。耳馴染みの良いポップ音楽とともに、この空間に身を委ねていると、年齢や職業、自分が何者であるかを忘れ、本能的にただリズムに身を任せる状態に。足腰でリズムを取り、頭を大きく揺らせ、左右に手を振り時に拳を振り上げる。何も考えず胸に響く鼓動を感じて体幹を揺り動かす、これをいわゆるトランス状態というのだろうか。クラブに行ったことはないけれど、城ホールが1万人参加の(自分が想像する)クラブになったような気がした。この感覚は今まで訪れたどのライブでも感じたことがない。
チケット代は13200円とそれなりにした。しかし、価格に見合う否それ以上の価値あるライブだったから、次回も可能なら参加したいと強く思った。ただし、山口さんがライブ中、「(うつ病から)復活しました!」と声高く叫ぶ姿に、医師の端くれとして不安を覚えざるを得なかった。ドキュメンタリーを見た限り、相当量の薬物を服用していたから。精神科医療に実際に携わったことはないけれど、精神・心療科に通院する患者を内科医として間接的に日々診ている。精神・心療科の医師と直接話したことはない。しかし、この領域は薬物量が増えることはあっても減らすのが困難な印象を強く持っている。心療科に通院する高齢男性にある時質問してみた。「仕事を退職して、子供が巣立って、夫を心配して付き添ってくれる妻がいて、何が不安なのですか?」、しばらくして返ってきた応えが「確かにそうですね。」だった。この件については語ることが多いので別の機会にする。山口さんもそのあたりは自覚していて、MCで「元の自分には戻れないけれども、病気とともに歩んでいく新しい自分になる。」と宣言していた。初参加のライブで未知の世界を見せつけてくれたサカナクションを、僕はまだまだ見続けていきたい。本人も話していたように「変わらずに変わっていく」、長いスパンで「焦らず慌てず、そして急がず」歩んで行って欲しいと願う。次回のライブが楽しみだ。