Stay Hungry. Stay Foolish.(ハングリーであれ、馬鹿であれ)
スティーブ・ジョブズの訃報に際して
元アップルCEOスティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式での有名な言葉である。その死を悼んで各界の著名人がコメントしているが、僕はコンピューターには無知蒙昧で興味がなく、残念ながらその偉大さを実感できていない。その有名な演説も、寺澤芳男氏の著書「スピーチの奥義」で知ったくらいである。
医師になり初めて購入したパソコンがマッキントッシュ(以下マックと略)だった。当時の医局では、DOSというオペレーションシステムを用いたNECのノートブックが主流だった。先輩から勧められ購入を考えたが、学会発表は手書き原稿で良かったし、スライド作成も医局のラボの女性にラフな図を渡せば作ってくれたので、パソコン自体必要なかった。
2年目研修は市立旭川病院だった。最初に回った呼吸器内科部長の小笠原先生がマック教の信者で、医療は程々に、マックに関しては必要以上に教えてくれた。このため、その部屋の住人(医師の控え室)はすべてマックを持っていて、自身も購入しなければならない状況に追い込まれた。薄給の研修医には到底購入は不可能で、父親に泣く泣く頼んで購入してもらった。今でも忘れない、50万近くするカラーモニターのIIsiだった。マウスを用いての操作、アプリケーションはダブルクリックして立ち上げ、不要なものはゴミ箱、コピー&ペースト等々、今では当たり前の操作が20年も前になされていた。
研修医時代は高級ゲームマシーンに過ぎなかったが、その後の大学院時代は八面六臂の活躍だった。EXCELでのデータ管理、DeltaGRraphでグラフを作り、StatViewで統計処理をして、Wordで論文を書き、Endnoteで引用文献を管理し、Persuationでプレゼン用のスライドを作成した。その一昔前なら相当労力を要した仕事が、パソコン素人の自分でもどうにかこうにか使えたのは、やはりスティーブ・ジョブズのおかげなのだろう。
2代目マックは、モニター一体型のPerfomaだった。パソコンは日進月歩である。IIsiも何かと支障・不便を来したので、自分で購入できてマックらしいデザインの機種を選んだ。この機種の思い出と言えば、内科認定医・内科専門医(現総合内科専門医)取得時に大変お世話になった。3代目は川崎医科大学時代に色鮮やかなi-Bookを購入した。持ち運べてデザインが良く、学会発表や論文作成で重宝した。開業後はi-BookG4を購入し、専らホームページの管理やメールのやり取りに使用している。
こうして振り返ってみると、医師としての歩みの側にいつもマックがあったことを改めて実感した。自分のようなコンピューター素人でも何となく使っていれば分かる簡単な操作、デザインに興味のある自分から見て納得出来る秀逸なデザイン、そして何より、i-phoneしかりi-padしかり、アップル製品を持っていれば世界が広がって行くようなワクワク感をアップル社は提供してきたように思う。
スティーブ・ジョブズを語ることなど畏れ多くて出来ないが、感謝の気持ちを述べるくらいなら許してくれるだろう。
スティーブ・ジョブズ様
僕は大学時代、コンピューターの講義がとても嫌いでした。何をしているかさっぱり分からなかったからです。分かりたいという興味さえ湧いて来ませんでした。パソコンお宅の友人に頼んで代わりに課題をやってもらいました。この時から、コンピューターは触るものではないと思っていました。
しかし、そんな僕でも、あなたが作ったパソコンでコンピューターが身近なものになり、医師としてのキャリアを積むにあたってマックが重要な役割を果たして来ました。
もし、あなたがいなかったら、と想像すると絶望的な気分になります。あなたがいてくれて良かった、と心底思います。本当にありがとう、本当に本当にありがとう。
癌の痛みから開放された今、安らかにお眠りください。