WPHH JAPON 2016 in KYOTO
フランク・ミュラーを見に行く旅
「先生は水曜日の昼は休診ですよね。もしよかったら、京都でフランク・ミュラーの大規模なイベントが開催されるのでいかがですか?ちなみに、先生は山本耀司さんのパーティーに行って本人に会って来たんでしょう。ひょっとしたら今回、フランク本人にも会えるかもしれませんよ。」、僕のコラムを読んでくれている時計店の担当者から電話がかかってきた。経営者にも関わらず無金利長期分割払いでしか時計を購入しない僕を気の毒に思っているに違いない。恩返しというか恩ぎせというか、超零細企業経営者に連絡してくれたのだろう。
確か、昨年も同様の誘いがあったように憶えている。水曜日の午後はスイミングにギター、日頃のストレスを解消する貴重な日である。しかも、近くとはいえ折角の京都を日帰りするのが億劫だった。お誘いを聞くやいないや丁重に断ったように思う。けれども、今年は何かが違った。五十代を迎えたことが心境の変化をもたらしたのだろう。母親の分まで残された人生を楽しもうの精神が、「これも何かのご縁なので、行かせてもらえますか。」の返事になった。
十月五日水曜日、午前の診療を終え、夫婦二人電車で京都に向かった。場所は東山にあるザ・ソウドウである。日本画家の竹内栖鳳の自宅兼アトリエを改装した広い庭園と木造日本建築が絶妙に調和した瀟洒な場所だった。東洋と西洋がバランス良く交わり、かつ典型的な日本を感じさせる素晴らしい環境であった。係に案内され受付を終えると、ロビーラウンジと思しき場所に通された。早速、ウェルカムドリンクを勧められた。帰りは公共交通機関なので心配することは何一つない、迷わずスパークリングワインを選んだ。慣れない場である、夫婦二人手を震わせながらスパークリングワインを飲んでいると、近くのテーブルに作家の松山猛さんが座られた。今回の展示会が、趣向の凝らされた特別なものであることを予感させた。
程なくして、お誘いの案内をくれた時計店の担当と展示会場を見て回った。最初の展示は、フランクイチ押しのヴァンガードというモデルが展示されていた(すいません、僕的には心ときめきませんでした)。順路通りに歩いていると広いラウンジに行き着いた。そこには、フランク・ミュラー氏本人がいた。「タイミングが合えば、フランク本人と直接会うことも出来ますよ。」と担当者が声をかけてくれた。残念ながら、今回はその機会を得なかった。その奥に足を進めると、驚愕の景色が待ち受けていた。数千万する時計が何本もディスプレーに飾られていた。億を超える時計もあった。しかし、見るだけなのでその価値が全くわからなかった。その後、気になった商品をラウンジでゆっくり手にとって拝見させてもらえる機会を得た。「あれ見せて。」「違うバージョンを見せて。」「色違いあるかな?」、きっとスパークリングワインのせいだろう、否違いない、買えもしないのにアラブの王様気分になった。僕が人生の時、こんなに言うことを聞いてもらったのは初めての経験である。しかも、ありとあらゆるフランク・ミュラーが次々出てくるのだから至福である。(つづく)